書籍の分野でも読み放題サービスが登場
これと同じ動きが書籍の世界にも広がろうとしている。アマゾンがとうとう、書籍読み放題サービスの提供を開始したからである。
同社は今年7月、電子書籍が読み放題になる「キンドル・アンリミテッド」を発表した。同社が提供する60万冊以上の電子書籍が読み放題となるほか、数千のオーディオブックにも無制限でアクセスすることが可能となる(日本でのサービス開始は未定)。
料金は月額9.99ドルとなっており、手が出しやすい価格設定である。キンドルで読めるのはもちろんだが、iOSやAndroidなどキンドルのアプリが動く端末であれば、どれでも利用することが可能となっている。
これまで電子書籍は規格が乱立していることなどから、思ったほどの普及には至っていない。電子書籍が安いといっても、紙の書籍とそれほど価格が変わらないことも普及を妨げている要因かもしれない。
しかし、月額読み放題サービスが日本でも導入された場合、状況は激変する可能性がある。出版業界も音楽業界と同じような道筋を辿る可能性が高いからである。
もっとも日本の場合、音楽業界はまだマシな方かもしれない。日本の音楽市場は、いまだにCD販売が主流という世界でも例をみないガラパゴス市場だからである。
米国では、有料の音楽配信サービスが急速に普及したことでCDの売上げは激減した。しかし、日本では逆にCDの売上げは横ばいが続く一方、配信サービスの市場規模は大幅に縮小しているのだ。米国では、音楽配信の売上比率は全体の6割を超えているが、日本はでは8割が依然としてCD販売である。
日本のCD価格は世界的に見て突出して高価だが、AKB48に代表されるように特定のファンが大量に購入してくれるという特殊な市場環境にある。このため聴き放題サービスが登場しても、それほどの影響はないとみる関係者もいる。
先ほどのSpotify社は日本進出に向けて交渉中といわれているが、変化を嫌う日本の音楽業界との交渉に手間取っているとの噂もある。今後、同社が日本でどのようなビジネスを展開するのか、またアマゾンが読み放題サービスを日本でも展開するのか要注目である。
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、
その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。
億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)
加谷珪一のブログ http://k-kaya.com