カバンはビジネスマンの、そして男の必需品であるが、ブリーフケース一辺倒だった昔に比べると、その売れ筋は相当変わったらしい。理由は、われわれのライフスタイル自体が変化したからだ。キャッシュレス化、ペーパーレス化などが、持ち運ぶモノを減らしたのだ。
そこでいまどんなカバンに人気があり、どんなモデルを選べばいいのか、都内有数の売り場面積と品揃えを誇るイセタンメンズで取材した。ご登場頂いたのは、自らもカバン職人をしていた経歴を持つ、超目利きのコンシェルジュだ。
今回の Concierge
青戸裕明さん(三越伊勢丹 バッグ&ラゲッジ マーチャンダイザー)
1978年、新潟市生まれ。両親が鞄関係の仕事をしていた影響もあり、大学卒業後、東京の鞄メーカー(ボーデッサン)に就職し、職人として3年間修業する。自らカバン製作に携わる日々だったという。その後、三越伊勢丹に入社。メンズ館カバン売り場に配属され、売り手に転身。現在では同売り場のマーチャンダイザーとして活躍している。
Q
「いまざっと俯瞰すると、カバン業界のトレンドというのはどうなっていますか?」
A
「大きなトレンドがないことが特徴なのです」
——いま、どんなスタイルのカバンが流行っていますか?
「流行っているという点からいえば、サコッシュ(肩掛け式の小さなカバン)」はまだまだ人気ですね。それからビジネスバッグでいえば、スリーウェイやバックパックでしょう。しかし実は、問題なのは“トレンドがないこと”なのです」
——といいますと?
「昔はコレといったベストセラー商品が必ずあったものですが、いまはありとあらゆるものがまんべんなく売れるのです。売れ筋はひたすら横に広がりました。例えば私が伊勢丹に入社した15年ほど前は、ヒット作は週に10〜15個は売れました。それがいまでは週に7〜8個が限界です。売上全体で見ると伸びているのですが・・」
——その原因は何なのでしょう?
「お客さまの好みの多様化ということもあるでしょうが、インフラによる変化も大きいと思います。つまり持ち物が減って、カバン選びがより自由になったのだと思います。キャッシュレス化、ペーパーレス化が進んで、以前のような大きな財布を持つ人は少なくなりました。パソコンなどを持ち歩く人も減りました。携帯さえあれば、大抵のことはできますから」
——ブランドで人気があるのは?
「スーツケースのリモワは突出した人気があります。サムソナイト、トゥミなどグローバルなブランドも強いですね。高級品だと、コーチ、フェリージ、バリ―、フルラなど、やはりインターナショナルに展開しているコンテンポラリーなブランドが人気です。今ではドメス系のブランドが4割、グローバル・ブランドが6割といったところです」
——レザーとナイロン系では、どちらが人気ですか?
「一般的にいえば、圧倒的にナイロン系でしょうが、イセタンメンズの場合はレザー系も奮闘しています。売れ行きは半々といったところでしょうか? 当店にいらっしゃるお客様は、高価格帯のモノをお求めになる方が多い。ちゃんとしたものを買うときは百貨店へ、というわけです。そういったマーケットで、レザーの価値は際立っています。これだけのブランドとハイクオリティな商品を、ワンストップで御覧いただける場所はないと思いますよ」