ARM買収もパスポートと戦略と考えれば安い買い物?
当時、IT業界におけるコムデックスの存在感は極めて大きかった。毎年ラスベガスで開かれる展示会にはマイクロソフトのビル・ゲイツ会長などIT業界の大物が集まり、そのスピーチにはすべての業界関係者が耳を傾けていた。コムデックスは秋に開催されるのが恒例だったが、翌年のIT業界のトレンドがここで決まるといっても過言ではない状況だったのである。
孫氏は、彼はコムデックスのオーナーとして、IT業界の中枢に入り込むことに成功した。これは日本人としては極めて異例のことであり、ここで培った人脈はやがてヤフーという金の卵の発掘につながってくる。
孫氏は創業間もないヤフーを訪問。トレーラーの中でピザを食い散らかしながら仕事をするジェリーヤン氏と意気投合し同社への出資を決定。のちにヤフーが上場したことでソフトバンクには巨額の含み益が転がり込んできた。投資した企業の含み益をテコに大型買収を展開するというスキームはこの時代に確立したものである。
孫氏はここで再び賭けに出る。せっかくIT業界で大きな立場を築いたにもかかわらず、これを捨て去り、電話会社を次々に買収していった。
2004年には約3400億円を投じて日本テレコムを、2006年には約1兆7500億円を投じてボーダフォンを買収している。一連の買収についても金額が高すぎるとの評価だったが、結果的にはそれほど高い買い物にはなっていない。
孫氏は日本での足場を固めると、今度は米国進出を目論む。同社が出資していたアリババの成長で転がり込んだ8兆円の含み益をフル活用し、米国の携帯電話会社スプリントを買収した。この案件も買収価格が高いと批判されているが、最終的な結果がどうなるのかはまだ分からない。
そして極めつけは、世間をあっと驚かせたARMの買収である。ARMが超優良企業であることことや、IoT(モノのインターネット)時代において同社が持つポテンシャルが大きいことは誰もが認める事実だが、今のところ両社に目立ったシナジーがないのもまた事実である。
だが、ARMの買収もコムデックスを買収した時と同様、IoT業界において圧倒的な立場を得るためのパスポートだと考えれば、3.3兆円も安い買い物なのかもしれない。
*この記事は2016年9月に掲載されたものです
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