日本株の上昇が止まらない。これまで1万8000円のカベをなかなか超えることができなかったが、ひとたびこれを乗り越えるとたちまち株価は2万円を挟む展開となった。何故?と首をかしげる人も多いが、この上昇は、市場関係者の多くが予想していたことであり、特段の驚きはない。現在の日本株は「上がる」材料が豊富というよりも「下がる」材料に乏しく、これが逆に買いの安心材料になっている。これまでのところ、株価に割高感がないことも上昇を後押ししている。
株価のベースとなる企業の業績は、非常に好調である。日本の製造業は米国市場に依存しているところが多いのだが、米国の景気は現在、非常に順調に推移している。米国向けに輸出する企業や、米国内に製造拠点を持ち米国市場で販売する企業を中心に業績の拡大傾向が続く。中国向けの輸出の減少を警戒する声もあるが、中国向けの輸出された製品は、最終的に米国に再輸出されるケースも多い。どこを経由するのかの問題であり、そのルートが変更になっただけの可能性もある。
日経平均構成銘柄の利益予想から理論的な株価を算出すると2万円を超える。ファンダメンタル的にはまだ買えるという判断になるだろう。
この動きを強く後押ししているのが、公的年金による買いである。安倍政権は公的年金の運用方針の転換を進めており、公的年金は、国債中心から株式中心の運用へと変わりつつある。すでに一部は株式へのシフトを進めており、昨年5月から累計で4兆円近くの株式をすでに購入した可能性が高い。ここまで大規模な買いが入ると、株価は一気に上昇することになる。日本郵政グループの上場に伴い、郵貯マネーを株式市場に投入するという声も出ていることなどから、公的マネーの買い余力が大きいと思われる。
問題はこの先である。理論的な株価は通常、1株あたりの利益(EPS)にPER(株価収益率)を乗じて求められる。PERは、株価が利益の何倍になっているのかを示す指標である。つまりPERが高いほど、今後、利益が増加すると皆が考えていることになる。
先ほど説明した理論的な株価が2万円というのは、現在のPERの水準が維持されたと仮定し、これに来期の利益予想の数字を乗じて得られたものである。もしPERの水準が変わらなければ、利益予想の伸びに比例する形でしか株価は上昇しないことになる。そうなると、株価は2万2000円くらいが限界ということになるだろう。
もしPERの水準そのものが見直されるということになると話は変わってくる。現在のPERは18倍程度。これは米国など他国の株式市場と同じ水準であり、妥当性のある数字といえる。PERから判断すれば、今の日本の株価はバブル的な水準ではなく、そうであれば、これ以上の買い上がりは少々危険ということになるかもしれない。
だが、日本はかつて諸外国に比べて突出して高いPERを付けていた時代があった。80年代のバブル経済と2000年のネットバブルである。バブル経済の時代にはPERが60倍近くになったことがあり、ネットバブルに至っては、80倍近くの数値になったこともあった。今考えると、まさにバブルなのだが、当時は「PERは無意味になった」と真顔で語られていたのである。
2度あることは3度あるともいわれる。基本的に売り圧力が乏しい中、理論値に関係なく、この水準からさらに上昇する可能性もあることは頭に置いておいた方がよいだろう。だが期待先行で買われれば買われるほど、その後の反動が大きいのもまた事実である。
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)など。2014年11月28日発売開始「稼ぐ力を手にするたったひとつの方法」
清流出版 1620円
加谷珪一のブログ http://k-kaya.com