ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

ザッカーバーグ氏の5兆円寄付 賞賛、批判、どちらも的外れである理由

Mark Zuckerberg
写真は2011のDeauville G 8での様子。iStock.com/COM & O

フェイスブックCEO(最高経営責任者)であるマーク・ザッカーバーグ氏が表明した巨額寄付が大きな話題となっている。しかし、同氏の寄付に対する国内の議論はかなりいい加減だ。想像が想像を呼ぶ状況となっており、寄付という行為に対する免疫のなさがうかがえる。

当初は賞賛の声、次は偽善を批判する声

ザッカーバーグCEOと妻のプリシラ・チャン氏は2015年12月1日、自らのフェイスブックのページで、第一子が生まれたことと、自らが保有する同社株の99%を慈善活動に寄付することを発表した。現在の株価で計算すると約450億ドル(5兆5000億円)になる。

この行為に対してまず寄せられたのは、賞賛の声であった。著名人のこうした行為に対しては、ややもすれば過剰な賞賛の声が集まるのは日常茶飯事なので、今回のケースも特に驚くべきものではない。次に目立つようになったのは、富裕層が寄付するのは節税目的の偽善であり、賞賛する必要はないとの否定的な意見である。寄付という節税手段に誤魔化されるなという主張だ。

一連のザッカーバーグ氏の行為は、どちらにも該当しない。賞賛の声も、批判も、実は的外れなのである。その理由は、同氏が選択した寄付のスキームにある。

通常、寄付行為は、財団を設立し、そこに資産を移すやり方が一般的である。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も、財団を設立し、そこに自身の資産を寄付している。多くの資産家が財団を設立するのは、ネットでも数多く指摘されているように税金対策である。

財団に寄付すれば、慈善活動に対する支出が義務付けられる代わりに各種税金が免除される。だが財団に名義を移す以上、自分の資産でなくなってしまうことは事実である。自身やその子供は、財団の運営メンバーという形で間接的にしか資産に関わることができない。

多くの富裕層は、ホンネではこのようなことはしたくないと思っている。だが、税金で資産がなくなってしまうことと、社会的な名誉などを総合的に天秤にかけ、財団への寄付という形を選択しているわけだ。

ところが今回のザッカーバーグ氏の場合はこれとは異なっている。ザッカーバーグ氏が寄付するとしている先は、自らが設立したLLC(有限責任会社)である。個人で持っていた資産を、資産管理会社というペーパーカンパニーに移管するケースは少なくないが、今回のケースは表面的には、それとほとんど変わらない。

ザッカーバーグ氏は、LLCを慈善活動を目的として運営するとしているので、それを「寄付」と呼んでいるようだが、自分の株を自分の会社に移しただけの行為を寄付と呼んでいいのかについては疑問が残る。その点において、無条件で賞賛する対象とはならないだろう。

加谷珪一

Return Top