クルマ好きを自認する方はもちろん、そうでなくとも一度は耳にしたというカーブランドは少なくないだろう。英国車ならトライアンフやモーリス、シンガーあたり、アメリカ車ならハドソン、デューセンバーグ、タッカー、スチュードベーカーなんてのがそれにあたる。イタリア車ならチシタリアあたりを知っていると“通”っぽく語れる。そして、今回注目するアバルトもそのひとつ。サソリのマークをモチーフにしたこれもまたカーガイを自称するには欠かせないブランドだ。
アバルトはそもそもチューニングメーカーだったこともあり、知る人ぞ知るといったマニアックなイメージは拭えない。1960年代のヨーロッパにおけるレースシーンに興味がないとなかなか巡り会えないだろう。ただその実績は輝かしく、今日でも世界中にはこのサソリに憧れるクルマ好きは少なくない。
礎を築いたのはカルロ・アバルト氏というオーストリア生まれのイタリア人。会社設立は1949年のことである。
それまで彼はチシタリアでF1マシンの開発に携わっていたが、同社が倒産したことで独立し創業した。そう、ここでチシタリアが出てくる。やはり重要だ。ちなみにサソリマークは彼の誕生月がサソリ座だったからといわれている。なかなかオシャレな着眼点である。
そんなアバルトがメジャーな存在となったのはフィアット500(チンクエチェント)との出会い。といってもそれは初代のモデル。つまり1957年当時の話である。アバルト氏はそれをベースにF1のノウハウを用いてカスタムした。
そのチューニングがものすごかったのは言わずもがな。巷の予想を遥かに超える過激なまでのパワーアップは“アバルトマジック”とまで呼ばれた。氏が培ってきた経験が一挙に花開いた瞬間である。