メンズ・ファッション業界で「白井俊夫」の名前を知らなければ“モグリ”である。横浜の老舗、信濃屋の店頭に初めて立ったのは1955年のこと。以来60年にも亘り第一線で活躍してきた。1950〜60年代には、アメリカやイギリスのスタイルを紹介し、1970年代はじめからは、それらにイタリアン・スタイルが加わった。バイヤーとして、いち早くクラシコ・イタリアを紹介したのも彼である。79歳になった現在でも店頭に立ち、彼を慕って多くの常連が信濃屋を訪れる。まさに服飾界の“レジェンド”といえる存在だ。
そんな彼が、その長いキャリアの中で培って来た、お洒落の極意を教えてもらおうというのが、今回の主旨である。アイテムや素材の選び方、小物の使い方など、半世紀の経験に裏打ちされた服飾知識は「深い」の一言。薄っぺらなファッショニスタとは一線を画す。まさに最強のコンシェルジュの登場だ。
今回の Concierge
白井俊夫さん(信濃屋 顧問)
1937年、横浜・本牧生まれ。1866年創業の老舗、横浜・信濃屋の店頭にアルバイトとして初めて立ったのは、1955年のこと。61年に正式入社。以来、60年に亘り信濃屋の顔として活躍。79歳となった現在でも、店頭には週2回(木・土)出勤している。ファッション業界内にも信奉者が多数おり、尊敬を集めている。
Q
「横浜らしい春夏のスタイルを教えて下さい」
A
「横浜は港町だからね。マリンを意識してみた」
——横浜らしい春夏のスタイルとは、どんなものでしょうか?
「そのリクエストを聞いていろいろ考えたんだけど、横浜は港町だからね。マリンがいいんじゃないかと思って、ブルーと白を合わせてみた。ネイビーブレザーは何にでも似合うしね。絶対にひとつは持っているべきアイテムだ。私はブレザーだけで何十着も持っているよ。素材違いでね」
——特におすすめのブレザーはありますか?
「今の時期なら、サマーカシミアがおすすめだな。実は、夏はコットンやリネンより、ウール系のほうが涼しいんだよ。コットンが涼しげなのは、見た目だけ。特に夏のカシミアは、素材感がしなやかでとてもいい」
——Vゾーンはどうすればよいですか?
「ストライプのタイはよくする。何本も持っている。英国風のものが好きだね。シャツは昔のものの方がよかった。それに今はクリーニングがダメだ。洗濯屋も昔の方がぜんぜん上手だった。ちょっと高かったけど、ちゃんと手でやっていたからね。残念なことだ」
——ブレザースタイルにおすすめの小物はありますか?
「私はよくブレザーのボタンを取り替えたり、後から胸部分にバッジを付けたりしている。気分が変わっていいもんだよ。それぞれのエンブレムには由来があるから、それを調べるのも面白い」
——夏のスーツでおすすめは、どんなものですか?
「2プライ、3プライの強撚糸を使った、モヘヤ混などがいいだろうね。おすすめは英国のマーティンソンの生地。シワにならなくて、快適だよ」
——他に夏ならではのおすすめアイテムはありますか?
「実は靴下も、コットンじゃなくて、ウールの方がおすすめなんだ。ウールの方がべたべたしない。色落ちもないし。コットンだと洗いを重ねると、白っぽくなってしまうんだよ。それにウールの靴下を履くと、水虫が治るらしい。昔は自衛隊から、ウールソックスの注文が随分とあったらしいよ」