宅配便最大手のヤマト運輸が、荷物の取扱量抑制の検討を開始したことが話題となっている。時間指定配送の見直しやアマゾンなど通販事業者に対する値上げの交渉を行う。ネット通販の荷物が急増したことで、物流の現場が悲鳴を上げているのは事実であり、現実問題として何らかの対応は必要だろう。
だが一方で、物流の世界が史上空前のイノベーションに直面しているのも事実である。あと数年もすれば、AIによって配送効率が劇的に向上したり、場合によっては人手を介さずに荷物を配送できるようになる。サービスが過剰なので、それを見直せばよいという単純な視点だけでは本質を見誤る可能性がある。
2016年3月期におけるヤマトの宅配便取扱量は17億3126万個で、前年比で6.7%増加した。2017年3月期はさらに増えて18億個を超える見込みである。ヤマトに限らず、宅配便の取扱量は増加しているが、ヤマトの最大の競合である佐川急便が、アマゾンからの依頼を受け付けなくなったことでヤマトへの集中化が進んでいた。
ヤマトは今回の事態を受けて、従業員の残業時間を1割減らす方向性で見直しを検討しているとされる。具体的には、昼の時間帯指定サービスの廃止や夜間の時間帯指定の変更、さらには値上げ交渉も行う。
時間帯指定サービスの廃止はあくまで配送効率を高めることを狙ったものであり、同じ荷物をより短時間で配送するための方法ということになる。取り扱う荷物の総量は変わらないので、仮に時間指定サービスの見直しが行われたとしても、全体的にはそれほど大きな影響にはならないだろう。
だがヤマトが本格的に値上げに踏み切った場合には話は変わってくる。アマゾンなどの通販事業者に対して値上げの交渉を行うということは、その結果次第では、取扱総量が実際に減少する可能性が出てくるからだ。
ヤマトが本格的に値上げの交渉に入った場合、ネット通販事業者には3つの選択肢がある。ひとつは値上げを受け入れ、そのコストを自社で負担するか利用者に転嫁するというやり方、もう一つは、他の運送事業者に配送を委託するというやり方、最後は、自社配送網の拡充である。
アマゾンは、年会費3900円を支払う有料会員(プライム会員)を対象に、アプリを通じて注文した商品を1時間以内に配送する「プライムナウ」というサービスを行っている。1回あたり2500円以上の注文が条件で、890円の配送料がかかるが(2時間以内でよければ無料)、運送会社ではなくアマゾンのスタッフが商品を持ってきてくれる。