近年、モヤモヤするという言葉をよく目にするようになった。この言葉は昔から存在しているが、以前は「わだかまりが残っているという」意味で使われていた。だが最近は明らかに怒っているという状況でこの言葉が使われている。
本コラムの読者の方ならすぐにピンと来ると思うが、これは明らかに言葉の言い換えであり、残念ながらこうした言葉の言い換えをしているうちは、成功を掴むことは難しい。
本当は怒っているはずなのに
本来、モヤモヤするというのは、友人と口論となり、とりあえず和解したが、十分に納得できていないといった場面で使う言葉である。だが、最近は相手からひどい仕打ちをされたという状況でこの言葉を使うケースが多いように思われる。
本当であれば、相手の仕打ちに対して怒っているはずなのに、人からいい人と思われたい、人から批判されたくないといった恐怖から、無意識的に柔らかい表現に置き換えている可能性が高い。とにかく対立を避けたいという心理が強く働いているのだろう。
同様に、最近、文末を小さな声で話す人が増えている。最初は大きな声で話していたのに、肝心の文末になると、小さな声になり何と言っているのか分からない。これも、強い主張をしたくない、批判されたくないという深層心理が大きく影響していると考えられる。
日本語というのは、単語の順番では文意が決まらず、助詞の使い方が文意を決めるという特徴がある。しかも述語が最後に来るので、文末を大きな声でしっかり話さなければ正しい文意は表現できない。日本語において文末を小さな声で話すというのは、意図的に文意を消滅させる行為といってよい。
これはビジネスにおける会話はもちろんのこと、テレビなどに出演している専門家にまで同じ傾向が見られるので、事態はかなり深刻である。とにかく皆が、批判されることを恐れて、ビクビクしているという状況だ。
このような状態でまともなビジネスができるわけがない。
むやみに他人とケンカをするのは良いことではないが、相手から非礼な対応を受けた時に、毅然とした態度を取れなくなってしまったら、かなり末期的な症状といってよいだろう。怒りというのは時に、失敗の原因にもなるが、前に進むための原動力でもある。怒りという感情を忘れてしまった人が、大きな成果を出すことはほぼ不可能である。