今回のコロナ危機では、非常に興味深い出来事があった。日本を代表する起業家であるソフトバンクグループの孫正義社長と楽天の三木谷浩史社長が共に、広範囲なPCR検査の実施を強く主張し、その手段を提供すると公言したことである。結局は批判を受けて二人ともプランを撤回したが、大成功した起業家がまったく同じ構想を打ち出したのは偶然ではない。
実際にどの程度の範囲まで実施するのかはともかく、企業経営者の中には広範囲に検査を実施した方がよいとの意見を持つ人が多い。一般世論や政府関係者との違いは明白だが、ここには成功者特有の思考回路というものが見て取れる。
結果は同じでも思考プロセスが同じとは限らない
孫氏は2020年3月11日、自身のツイッターで「新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい」と発言した。このツイートは一気に拡散したが、「医療崩壊につながる」との批判が殺到したことから、孫氏はこの発言を撤回し、マスクの寄付に支援の方向性を切り換えた。
一方、楽天は4月20日、独自でPCR検査キットの販売に乗り出し、2日後の22日には首相官邸で行われた有識者会議において、全国民に対してPCR検査を実施すべきとの提言を行った。このプランについても批判が出たことから、楽天は販売を見合わせることになった。
結局はどちらのプランも断念する結果になったとはいえ、日本を代表する2人の起業家がまったく同じ構想を打ち出したのは偶然ではない。孫氏も三木谷氏もコロナについてはかなりの危機感を持っており、何としても対処しなければという思いが強かったといわれる。
楽天の場合には、検査キットを使った無料のセルフPCR検査を税金を使って行うプランを提示していたので、自社の利益を考えた面があることは否定できないが、とにかく状況を改善しなければという強い意志があったのは間違いない。二人とも医療の専門家ではないが、高度な知性を持っており、何の根拠もなくこのプランを考えたわけではないはずだ。
二人が同じように考えた理由は明白である。