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加谷珪一|原油価格の下落による市場の混乱をどう見る?

原油

原油価格の下落が世界経済に大きな影響を与えている。ロシアなど資源国の一部はかなり厳しい状況に追い込まれており、金融危機が発生する可能性を指摘する声も出ている。確かにリスクが大きい状況ではあるが、長期的に見れば、今回の混乱は、いい投資チャンスになると筆者は見ている。

今回の原油価格の下落は、世界経済の失速懸念がひとつのきっかけになっているが、根本的には米国のシェールガス革命による大幅増産という供給要因がある。米国は近い将来、エネルギー源のすべてを自給できる見通しであり、中東からの原油の輸入が大幅に減る可能性が高い。サウジアラビアなど中東の主要産油国は、長期的に原油が余剰となる可能性が高いと判断している。このため、サウジアラビアは減産に否定的であり、これがOPEC(世界石油輸出国機構)の減産見送りの決断につながった。

一部からはサウジアラビアが米国のシェールガスに対して価格勝負を挑んでいるという見方も出ているようだが、実態は異なるようだ。低コストで豊富な産出量を誇るサウジアラビアにとっては、石油による国家歳入を一定にする事が重要であり、シェールガス事業者との価格勝負になっているのは、あくまで減産見送りの結果にすぎない。

短期的にはロシアなど産油国の金融危機など波乱要因が多いが、中長期的に見れば原油価格の下落は世界経済にとってプラスである。特に、世界最大の石油消費国の米国が受けるメリットは大きい。シェールガス事業者は安値で苦しいだろうが、それは米国経済のごく一部にすぎない。米国のGDPは7割が個人消費となっており、原油価格の下落は消費の拡大に直結する。早くも米国ではガソリン価格の下落によって大型車の売れ行きが好調になっており、価格下落の効果が出ている。

米国株は高値が続いていることや、利上げが近いことなどから、ちょっとしたニュースで下落しやすい状況にある。原油価格の下落によって新興国から資金が引き揚げられる事態となれば、米国も含めて世界の株価が大きく下落する可能性がある。だが基本的に米国経済は堅調であり、最終的には原油安が成長を促進するはずである。株価の下落は、中長期的に見て非常にいい買いタイミングとなるだろう。

このところ米国では中国の電子商取引大手アリババなど、話題となる企業の上場が相次いでいる。12月10日には金融ビジネスに革命を起こすといわれているレンディング・クラブ・コーポレーションという会社が上場した。この会社は、インターネット上で個人間のお金を貸し借りするサービスを提供しており、銀行を中心としたローンの市場に大変革をもたらすと期待されている。取締役には元財務長官のローレンス・サマーズ氏が名を連ねるなど、かなりのプレゼンスがある。こうしたイノベーティブな企業が登場していることは、長期的に見て米国経済の大きな強みとなるだろう。米国株が調整する事態となった場合には、米国株への投資を前向きに検討すべきだろう。

 


 

加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
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加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

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