欧州中央銀行(ECB)がいよいよ量的緩和策の導入に踏み切った。一部ではドラギ・バズーカなどとも報道されているが、欧州の場合、量的緩和策の効果は限定的と考えた方がよい。過度な期待は禁物である。
欧州における量的緩和策は、ECBが単独で実施するわけではない。ECB理事会の決定に基づき、各国の中央銀行が個別に緩和策を実行する仕組みになっている。
各国中銀は、3月から国債を中心に毎月600億ユーロ(約8兆円)の資産買い取りを実施することになるが、どの国債を購入するのかについては、各国中銀のECBに対する出資比率によって自動的に決定される。結果として、ドイツのような経済規模の大きい国の国債がより多く購入されることになる。
ドイツ国債は人気が高く、すでにかなりの低金利となっている。しかもドイツは財政再建に成功しており、今年から実質的に新規の国債発行を行っていない。市場関係者の一部からは、近い将来、買うことができるドイツ国債がなくなってしまうのではないかという懸念すら出ている。国債を簡単に購入できないということになってくると、量的緩和策の効果も半減してしまうだろう。
さらにいえば、緩和策の規模も小さい。ECBにおける今回のプランは日銀を少し上回る程度の資金供給量だが、ユーロ圏の経済規模が日本の3倍近くあることを考えると、相対的に見た効果は小さい。また、欧州の不況は米国とは異なり、構造的な問題が大きいといわれる。構造的な問題を抱えていると、金融政策の効果は薄れてしまう可能性が高いと考えられる。
こうした欧州の構造問題のひとつが、ギリシャに代表される非効率な債務国の存在である。ギリシャではEU主導の緊縮策に反対する急進左派が政権を獲得しており、チプラス新首相はただちにEUとの交渉を行う方針を明らかにしている。ただ、ギリシャが市場に混乱を引き起こす元凶かというとそうではない。確かにギリシャはユーロ圏経済の足かせとなってはいるが、以前のように欧州に危機をもたらす存在とは、もはやみなされていないのだ。
ギリシャのGDPはユーロ全体のわずか2%しかない。しかも、欧州債務危機の発生以後、ギリシャのような債務国の破たんが市場や金融システムに過大な影響を及ぼさないよう、様々なプログラムが準備されてきた。ギリシャとEUの交渉が決裂して、同国がユーロ圏から突然離脱しても、ギリシャがデフォルトを起こすだけで、市場が大混乱する可能性は低いと考えた方がよい。
ギリシャ問題は過剰に心配する必要はないものの、一方でECBによる量的緩和策には期待できない。欧州の現状をひとことで整理するとこのようになる。IMFの最新の世界経済見通しでは、唯一、米国だけが大幅な上方修正となっている。当分の間、米国に資金が集まる状況が続くだろう。だがそれは、世界経済が米国だけに依存しているというリスク要因でもある。この状況をチャンスと見るか、ピンチと見るかは人それぞれかもしれない。
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
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加谷珪一のブログ http://k-kaya.com