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加谷珪一|預金封鎖と財産税が資産家の間で話題に

エンリッチ 加谷氏 コラム

NHKの夜9時のニュースで取り上げられた預金封鎖と財産税の話題が、富裕層の間で密かにシェアされている。預金封鎖と財産税は終戦直後の非常時に、日本経済の破たんを防ぐために実施された非常措置だが、これによって多くの資産家が富を失った。当時と今とでは状況は違うが、日本の財政問題が深刻化しているのは事実であり、多額の資産を持つ人にとっては気が気ではないようだ。

太平洋戦争終結後、日本経済は激しいインフレに見舞われた。太平洋戦争に費やした天文学的な経費のうち、多くが、日本国債の日銀直接引き受けによって賄われていたからである(計算方法にもよるが、戦費の総額は開戦当初の国家予算の70倍を超えている)。

当初の予想通り、戦争が終わると、日本の物価は猛烈に上がり始めた。政府はインフレを退治するために、国民の預金を封鎖するという荒療治に出たのである。

預金封鎖は1946年2月に突然実施された。生活に必要となる最低限度のお金以外は、銀行預金から引き出せなくなったのである。しかし、預金封鎖の最大の狙いは、インフレ抑制よりも、国民の財産から強制的に税金を徴収し、戦費で膨れあがった政府の借金を帳消しにすることにあったといわれている。

預金封鎖の最中、政府は、財産調査令を施行し、国民に保有する銀行預金の残高を提出させた。その後、同年11月に財産税法が施行となり、封鎖された預金に対して強制的に税金が課せられた。

税率はかなりの累進となっており、お金のない庶民は10%程度だったが、富裕層は何と90%もの高い税率が課せられた。インフレで預金の実質的価値が目減りしていたところに、こうした強制措置が重なったことで、預金を持っていた資産家はその富をほとんどを失ってしまったといわれる。

当時と今とでは、経済環境が異なるが、現在、日本政府が抱える負債の水準は、終戦当時と同レベルに達している。番組のメッセージは、日本は財政問題を解決しないと、再びこのような事態になるかもしれないということなのだろう。

もっとも、この措置が実施された当時は、まだ旧憲法であり、現在では日本国憲法が施行されている。私有財産の保護が憲法にうたわれているので、容易にはこうした措置を実施できないだろう。だが、政府がその気になれば、国民の財産を奪うことなど簡単なことであるという事実はよく理解しておいた方がよい。

ちなみに、この預金封鎖には抜け道があったことはあまり知られていない。株式を購入する時に限り、預金を引き出すことが可能だったのである。この時期、資産を株式に変え、その後のインフレで大きな利益を得た投資家はたくさんいる。野村證券の元会長である故田淵節也氏は、預金封鎖当時、資産運用にめざとい寺社などが、積極的に預金の引き出しと株式の取得を行い、後に大きな利益を上げていたと生前、証言している。

どんな事態にも何らかの解決策はあるものだ。本当の資産家は実にしたたかなものであることがわかる。

 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
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加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

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