このところ格差問題が大きくクローズアップされている。格差問題を取り扱ったフランスの経済学者トマ・ピケティの本が異例のベストセラーになっており、米国のオバマ大統領は格差問題を解消するため富裕層への課税強化を打ち出している。日本でもこのところ格差問題がメディアに取り上げられるケースが増えているが、実態はどうなっているのだろうか。
米国の格差拡大の要因は富裕層への優遇
国際NGOである「オックスファム」は2015年1月19日、世界人口の1%を占める富裕層が、世界全体の富の約半分を独占しているという報告書を公表した。同団体によると、上位1%の富裕層が、全世界の富の48%を占めており、この数字は2009年の44%から上昇しているという。今のペースが続けば、来年には1%の富裕層が全世界の富の過半数を所有することになる。
上位1%の富裕層は1人あたり約270万ドル(約3億2000万円)の資産を保有しており、逆に下位8割を占める層の1人あたりの資産額は3851ドル(約45万円)にしかならないという。確かにこの数字を見ると、相当な格差が存在していることになる。
ただこの調査は全世界を対象としたものなので、下位8割の中には、経済水準の低い途上国も含まれる。だが米国の様子を見ると、この状況と大きな違いはない。
FRB(連邦準備制度理事会)によると、米国では上位3%の全体の富の過半数を占めており、この割合はやはり上昇しているという。1%と3%という違いはあるが、やはり一部の超富裕層に富が偏っていることが分かる。
オバマ大統領は2015年1月20日、一般教書演説において、格差解消のため富裕層課税を強化する方針を打ち出した。格差に寛容な米国でもいよいよ富裕層課税が強化されるという印象だが、よく見ると状況はかなり異なっている。
確かに米国ではここ20年の間に格差が拡大してきたのは事実だが、その原因はブッシュ政権から続く、富裕層への優遇税制にある。
オバマ大統領は、株式の売却益などに課税するキャピタルゲイン課税について、レーガン政権の時代まで税率を戻すと主張している。つまり、過剰に保護された富裕層への課税を定常
状態に戻すだけなのである。
米国の格差が拡大したのは、富裕層を過度に優遇したことが原因である。その結果、超富裕層が持つ資産が大幅に増加し、中間層との格差が拡大した。この状態がよくないと考えれるのであれば、超富裕層への課税を強化すればよいということになる。オバマ大統領の提言は、話としては非常に単純だ。