年末年始にかけてパーティやレセプションなどの機会が多くなる。最近ではブラックタイ指定の集まりが、再び増えているという。男を最も輝かせる一張羅だからこそ、いいものを持っておきたい。究極はやはりオーダーメイドである。
そこで今回は、英国的正統を継承することで知られるテーラー、バタクを訪ね、タキシードのオーダーについて伺った。一生物を手に入れるために知っておきたい知識が満載である。
今回の Concierge
中寺広吉さん(バタク代表取締役)
1965年、富山県生まれ。大手アパレルメーカーのパタンナー、モデリストを経て、1994年、恵比寿に注文服アトリエ、「ノーベルノート」を設立。99年、テーラー「バタク」を開業。その後MTOを中心としたライン「バタク ハウスカット」も追加される。英国をベースとしつつも、独特の審美眼に貫かれた服作りに惹かれるファンは多い。現在は日比谷、新宿御苑、大阪、福岡にショップを展開しており、お洒落上級者が集う。フォーマル関係の充実ぶりは他に類を見ない。
Q
「そもそもタキシードって、どんな時に着るのでしょう?」
A
「奥様とレストランへ行く時に着たっていいのです」
——タキシードはどのような時に着るものですか?
「ドレスコードが“ブラックタイ”となっていたら、必ずタキシードを着ていかなければなりません。スーツではNGです。特に海外では、日本のようにドレスコードが甘くないので気をつけて下さい。社会のグローバル化を反映してか、タキシードのオーダー数は増えて来ています」
——やはり、敷居が高そうな服ですね。
「そんなことはありません。気軽に着ていただきたい準礼装です。タキシードは英国ではディナージャケットというのですが、正礼装であるテイルコート(燕尾服)だとディナーを食べる時に座りにくいので、着替えたのが始まりという説もあります」
——本来は食事をするためのジャケットだったと?
「そうともいわれています。“準”なのですから、もっと気軽に羽織ればいいのです。例えばちょっといいレストランへ奥様と出かけるような時に、ディナージャケットをお召しになるのはとても洒落ていると思いますね。実際に私たちのお客様でも、そういったことをされる方が増えています」
——略礼装のブラックスーツとはどこが違うのでしょうか?
「「ラペルに拝絹(はいけん)と呼ばれるシルクの布を使用すること、パンツの脇線に側章(そくしょう)というリボンが縫い付けられていることが最大の特徴です」
——タキシードは、結婚式などでも使えますよね?
「もちろん御召し頂けますが、昼間はモーニングコートかディレクターズ・スーツ(黒ジャケットにストライプなどのパンツを合わせたもの)にして下さい」
Q
「どんな生地で仕立てればいいのでしょうか?」
A
「スリーシーズン着られるバラシアがおすすめです」
——生地はどんなものを選べばいいのでしょうか?
「タキシード用の生地としては、起毛感のあるドスキン、起毛感のないタキシードクロス、ざっくりした風合いのバラシアなどがあり、すべて高級な光沢感があります。一着目なら、スリーシーズン着られるバラシアがおすすめです。タキシードクロス、ドスキンがどちらかというと秋冬向けの生地なのに対し、バラシアには薄手の生地が多いのです。300gくらいを選ばれる方が多いですね。モヘア混もおすすめです」
——シーズンごとに2着用意する人もいるのですか?
「多いですね。もし2着作る余裕があれば、春夏用に240~280gくらいのモヘアバラシア、秋冬用に360~440gくらいのタキシードクロスかドスキンでしょうか」
——色は黒のみですか?
「ブラックとミッドナイト・ブルーが正式です。ミッドナイト・ブルーというのは、黒に近い紺で、夜の照明の下で見ると、こちらの方が黒く見えるのです。カラフルな色を使った、いわゆるファンシー・タキシードと呼ばれる類いは、一着目からはあり得ません。例外として、盛夏用にホワイトのリネンで仕立てることはあります」
——やはり英国の生地で仕立てるのがいいのでしょうか?
「そうですね。やはり英国のミルはおすすめです。スキャバル、スタンドイーブン、ダグデール、スミス ウーレンあたりでしょうか。国産生地にもいいものがあります。これらのメーカーにはフォーマル用のバンチ(生地見本帳)があって、さまざまなものを比べられるようになっています」