日常のリフレッシュは言うまでもなく、近年は接待や福利厚生にも使われるなど、利用シーンが拡大しているボートやクルーザー。エグゼクティブにとって関心の高いジャンルがだが、近年は「カーボンニュートラル」の流れのもと徐々に電動化へ舵が切られているのはご存じだろうか。
とりわけ、国内で積極的に取り組むのが、船外機やウォータービークルの販売で世界でも高いプレゼンスを持つヤマハ発動機だ(以下、ヤマハ)。
動き始めたマリン業界のEVシフト
日本ではヤマハがいち早くアクション
近年は、CO₂(二酸化炭素)など温室ガスの増加に伴う自然災害の激甚化が世界各地で進み、気候変動への対策が世界的に加速している。とりわけ目立つのが、排出されたCO₂を実質ゼロの状態にする「カーボンニュートラル」で、2021年1月時点で日本を含む124か国と1地域が2050年までに実現すると表明。クルールビズ・ウォームビズの実施や再生可能エネルギーの導入などが始まっているが、なかでも顕著な動きが見られるのは自動車業界で、エンジンから電気自動車(EV)へのシフトという、100年に一度といわれる大変革期を迎えている。
ただし、EV化のトレンドが始まっているのは自動車だけではない。ボートやクルーザーなど動力源をエンジンに頼るマリン業界も同様で、環境意識の高い欧州を中心にバッテリーとモーターで動くモデルなどが登場している。そうしたなか注目を集めているのが、ヤマハの「HARMO」なのだ。
「『HARMO』はモーターによる電動推進ユニットとステアリングシステムなどを統合した操船システムです。世界的に脱炭素が進められるなか、当社グループでは『環境計画2050』を掲げ、今年7月には今後取り組む環境対策やモビリティ開発に関する『環境技術説明会』を開催するなど、積極的に取り組んできました。そうした中、2016年のオランダ・アムステルダム、20年のドイツ・デュッセルドルフなどでの参考出展、昨年8月から始まった北海道小樽市の小樽運河クルーズでの実証実験を経て先行受注を始めたのが『HARMO』です。9月にはイタリア・ジェノバ国際ボートショーにも出展して、好評を得ました」
こう話すのは、マリン先行開発部PJ開発推進グループで「HARMO」開発のプロジェクトリーダーを務めた前島将樹氏だ。
ヤマハは1993年に世界初の電動アシスト自転車「PAS」を発売、2002年には都市型電動コミューター「Passol」を提案するなど、はやくから地球環境の課題解決に向けた取り組みに着手。以降も、二輪車や船外機、ゴルフカーや車いすなど、さまざまなカテゴリーで電動化を拡大させてきた。カーボンニュートラル社会の実現に向けた船外機の技術戦略としてはICE(Internal Combustion Engine:エンジンなど内燃機関)系の燃費改善や電動モデルの開発、水素やe-fuel(再生可能エネルギー由来の水素)など再生可能エネルギーを動力源とするモデルの開発を進めている。
「船外機のパワートレイン構成比は現状ではエンジンがほぼ100%を占めていますが、BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリーの電力でモーターを駆動)・FCV(Fuel Cell Vehicle :燃料電池で発電しモーターを駆動)の普及率を2030年に21.0%、35年に30.0%、50年には81.0%まで伸ばす方針です」(前島氏、以下同)
欧州ではすでに一部メーカーが電動船外機を販売していて、水路(カナル)を巡る観光資源のあるオランダやデンマークなどの北欧の観光地などでは、レンタルボートの動力源は電動モーターばかりということも。2馬力など小型ボート向けの電動モデルから始まり、HEV(Hybrid Electric Vehicle:エンジンとモーターを組み合わせ駆動)やFCVを搭載した大型ボートやクルーザーの実証実験も始まっている。どちらかというと、欧州をはじめ海外での展開が先行しているが、日本メーカーでBEVを市場に投入するのはヤマハが初めてだ。