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ザッカーバーグ氏の5兆円寄付 賞賛、批判、どちらも的外れである理由

ザッカーバーグ氏は何を考えているのか?

一方、寄付する先が、自ら設立した会社だったことから、ザッカーバーグ氏にはほとんど節税のメリットがないことも明らかになった。つまり節税を目的とした偽善的行為だという批判も該当しないことになる。

では、ザッカーバーグ氏は、節税にもならないのに、なぜわざわざLLCに資産を移し、それを寄付と呼んだのだろうか。それは、ザッカーバーグが慈善活動について大きな野心を抱いているからだと言われる。

ザッカーバーグ氏はかつて個人的に学校などに寄付を行っていたが、その結果はかなり悲惨なものだった。ある公立学校への寄付では、教職員組合など学校の利害関係者が寄付金の争奪戦を演じ、寄付したお金が生徒の支援に回らないという事態に陥った。こうした経験から、ザッカーバーグ氏は、単に金を配るだけの寄付では意味がなく、有能な人間が企業経営の視点で強くコミットする必要があると考えているようなのだ。

実際、慈善事業の世界はビジネス感覚に乏しく、その結果としてプロジェクトがうまくマネジメントされていないケースが目立つ。世の中では、非営利な組織であることを過剰に評価する傾向があるが、営利団体と非営利団第の違いは、各事業年度で最終的に余ったわずかなお金を出資者に還元するかどうかの差でしかない。

非営利であろうが営利であろうが、その運営に多額の費用が必要なことは事実であり、営利企業の経営と何ら異なるものではない。非営利企業だからといって特別なことは何もないのだ。ザッカーバーグ氏からすれば、うまく運営できない慈善事業など、害悪でしかないと判断しているのかもしれない。

一部には政治への関与を指摘する声もある。慈善活動を単なる趣味ではなく、目的達成のための手段と位置付けるなら、政治との関係を無視することはできない。財団では政治家に対する資金援助はできないので、資金使途が自由になる会社形態を選択したというわけである。

こうしたザッカーバーグ氏のスタンスについては、個人的な野心を実現することが目的であり、やはり慈善事業とは呼べないとの批判は当然、出てくるだろう。ただ、これほどの実業家であるならば、個人的な野心と、賞賛される慈善事業を両立させようと考えても不思議ではない。

最終的には、ザッカーバーグ氏が、今度、どのような形で慈善事業を展開していくのか、その結果でわたしたちは判断するしかないだろう。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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