10代から自転車競技の日本代表として活躍してきた湯本優氏。現在は、LAを拠点に医師免許をもつアスリートとして、スポーツ医学や予防医学を取り入れた健康的なライフスタイルを世に広めている。
一方で、世界最大の寄付サイト「ジャスト・ギビング」の日本版を立ち上げた人物でもある。当時、クラウドファンディングサイトがなかった日本で普及に尽力し、東日本大震災では瞬間的に8億円もの寄付を集めることに成功した。こうした活動を通して、社会貢献的なマインドは、今後のビジネスのキーになるという湯本氏に、その理由を伺った。
普通では体験できない世界を見せてくれた
スポーツの力を社会に還元したい
17歳の頃、僕は世界選手権の日本代表としてドイツの地にいました。今から、20年近く前です。ドイツは自転車競技も盛んでしたが、当時からスポーツ医学が根付いていました。今でこそパーソナルトレーナーの存在は知られていますが、当時の日本には皆無。でも、海外のナショナルチームにはドクターはもちろん、トレーナーやメンタルコーチが帯同している。
将来スポーツに関わる仕事をしたいと考えていた僕は、医師免許があれば将来の可能性が広がると思い、高校卒業後は医学部に入学し、医師免許を取りました。その間もスポーツと両立し、自転車やトライアスロン、ランニングをやってきました。おかげで視野が広がったことがたくさんあります。いろいろな国にも行きましたし、若い頃から企業の方と話す機会もありました。チャリティに対する考え方もそのひとつです。
海外のスポーツ大会では、エントリーシートにチャリティのチェック欄があって、50ドルなり100ドルなりを寄付できることがほとんど。つまり、自分のチャレンジがチャリティにつながるのです。こうして若い頃から普通では体験できない世界に身を置くことができた僕は、いつしか、“スポーツの力を社会に還元したい”と思うようになりました。
世界最大の寄付サイト
“ジャスト・ギビング”を日本へ
そんなときに出合ったのが、ジャスト・ギビングです。2001年にイギリスから始まり、ロンドンマラソン1回で30億円を集めた実績のある寄付サイトです。ある人がチャレンジ宣言をして、それに共感した人がお金を寄付し、その寄付金が応援したいNPO団体の活動資金となるしくみです。
どんなお金持ちでも、一度に30億円の寄付はできません。それに、100万円を1人から集めるより、1万円を100人から集めたほうがいい。団体を応援する人が増えれば、活動が広がりますし、それだけ世の中に課題があることを共有できます。チャレンジャーにとっても、限られた自分の力がほかの人の善意で何倍にもなることを体験できます。チャレンジの内容は7、8割がスポーツですし、僕にできることはたくさんあると思いました。
しかし、2010年当時、日本にはクラウドファンディングがありません。なぜ、インターネットにお金が集まるのか、なぜ手数料をとるのか、そのしくみをなかなか理解してもらえませんでした。手数料は、システムを構築して運営していく限り、維持費や人件費・クレジット手数料がかかるのでどうしても必要なもの。
僕たちは、そこを丁寧に説明していきました。そして、寄付されたお金が活動現場で使われているのかを全て公開し、ジャスト・ギビング自体の会計報告もきちんと行い、透明性があることを武器にしました。それは、今もジャスト・ギビングを運営する上で大切にしているところです。