よく知られているように日本では公的な医療保険制度が完備されている。一般的な健康保険であれば、治療に必要となる費用の7割がカバーされるので、誰でも安心して病院に行くことができる。一定金額以上の費用が必要となる高度な治療については、補助が出るので、自己負担率はさらに小さくなる。日本では保険料さえ納めていれば、病院にかかれないという事態は避けることができる。
限界に達しつつある日本の公的医療サービス
だが、こうした国民皆保険制度はそろそろ限界となりつつある。日本の医療財政が深刻になっているからである。2011年の国民医療費の総額は38兆6000億円に達しており、2020年には現在より30%も支出が増加する見込みとなっている。世の中では年金の維持可能性についてよく話題になるが、実は、医療財政の方が深刻な状況なのである。
一方、こうした保険が適用される医療サービスとは別に、全額自己負担で提供される医療サービスもある。こうした医療サービスは「自由診療」といわれている。
自由診療を行っている医療機関は少なく、多くが富裕層向けの完全予約制クリニックである。ただ、歯科だけは例外で、インプラントに代表されるように自由診療は比較的ポピュラーな存在となっている。
自由診療の予約制クリニックは非常に快適である。むやみに他人と会うことなく、ゆったりと診察を受けることができるし、日本では承認されていない薬も処方してもらえる。快適さを追求するという意味では、非常に意味のあるサービスといえるだろう。
また一部の医療機関では、保険適用では使うことができない検査を自由診療で提供している。すべてのケースに適用できるものではないが、場合によってはがんの早期発見などにつながるケースもある。
ただ、こうした自由診療による医療サービスを、がんや心臓病など、命に関わるレベルの治療に使うことは現実的に難しい。こうした病気の治療を自費で行うということになると、場合によって数千万円から億単位の金額が必要になるケースが出ててくるからだ。
高額所得者が多く、保険も含めて、こうした富裕層向けのサービスが多数存在する米国のような国であれば話は別だが、日本ではこうしたサービスを自由に利用できる層というのは極めて限定されてしまうだろう。日本では、何らかの形で公的保険による医療サービスを受けることが大前提ということになる。
それなりの医療サービスを求めるなら相応の負担が必要に
現在、政府では、公的保険による治療と自由診療による治療を組み合わせる「混合診療」の実施を検討している。安倍首相は今年の6月「混合診療」を拡大させるための法案を、来年の通常国会に提出する考えを明らかにしている。
混合診療が実現すれば、基本的な治療は公的保険で行い、必要に応じて、自費の治療を組み合わせるという選択が可能になる。すべてを自由診療で実施するやり方に比べて、費用を大幅に安くすることが可能となる。