日本生産性本部が毎年行っている新入社員に対する調査によると、人並みに働けば十分と考える新入社員が過去最高水準になったという。最近の若者は、ゆとり世代でやる気がないなどと批判されているが、一見するとそれを裏付けるような調査結果に思える。だがもう少し詳しく結果を分析してみると、日本全体として生活実感が苦しくなっているという現実が垣間見えてくる。
一見するとバブル期と同じ調査結果だが
この調査は、日本生産性本部「職業のあり方研究会」と日本経済青年協議会が毎年実施しているもので、1969年から続けられている。質問項目は時代によって多少変化しているが、基本的な中身は同じである。
こうしたアンケート調査は世の中に無数に存在しているが、その多くが、数年間の継続実績しかない。そこで得られた結果は、たまたま今だけなのか、昔から同じなのかまでは分からないことがほとんどだ。
短期的な継続実績しかない調査結果をもとに、「最近の新入社員は・・・」と結論付けるのは少々危険である。その点、同調査は長期的な変化を知ることができるので、非常に貴重なデータといえるだろう。
2015年に入社した新社会人の中で、「人並みに働けば十分」と回答した人は53.5%と過去最高を記録した。この結果だけを見れば、最近の若者はやる気がないという話になりがちだが、過去の数値を見ると必ずしもそうとはいえない。
これまでの最高値はバブル経済がピークを迎えていた1990年となっており、当時の新入社員は、今、まさに中間管理職として新入社員に厳しく接している人たちである。人並みで十分という発想は、特に最近の若い人に特有なものではないということが分かる。
人並みで十分という割合がどう変化したのかを分析すると、さらに面白いことが分かる。基本的に景気がよくなり、生活実感が向上すると、人並みで十分と回答する割合が増加する。バブル末期はまさに景気が絶頂の時であり、次に高い値を示したのは、リーマンショック前のプチバブル時代であった。
アベノミクスがスタートした2012年以降からは、再び数値が急上昇している。この流れで考えれば、アベノミクスはうまくいっており、若者の生活実感が改善してきた結果と解釈することができる。だが本当にそうだろうか。
確かに最近は、消費や設備投資が増え始めており、景気が回復するサインも散見される。だが、工業製品全般の生産は低い水準が続いており、社会全体として好景気という雰囲気にはなっていない。円安による輸入物価上昇で、モノの値段が上がったという印象を持つ消費者も少なくないはずだ。
つまり、バブル期のように純粋に景気がよくなったので、人並みで十分と考えているわけではない可能性が高いのだが、実はこうした雰囲気は、調査結果にも反映されている。