時代によって街が持つステイタスは大きく変わってくる。最近はその傾向がより顕著になっているようである。会社の経営者は常に富裕層の一角を占めている存在だが、経営者が好む街のランキングに大きな変動が見られる。背景には、人口の減少や社会構造の変化といった要因がありそうだ。
トップは赤坂と西新宿
東京商工リサーチは全国267万社の社長を対象に居住地域に関する調査を定期的に行っている。2014年の調査では、社長が住む街としてトップになったのは東京都港区赤坂であった。2位は東京都渋谷区代々木、3位は東京都新宿区西新宿だった。
一方、かつてはランキングの上位を独占していた田園調布は18位、成城は13位と低迷している。田園調布は前回(2012年)の調査では6位、成城は7位だったことを考えると急降下したといってよいだろう。
赤坂と西新宿は両方ともいわゆる高級住宅地ではない。近隣にオフィス街や繁華街があり、従来のイメージではあまり積極的に人が住むところではないかもしれない。このような地域が居住地でトップになったということには2つの要因があると考えられる。
ひとつは、会社の経営者がより忙しくなっており、移動を最小限にしたいと望んでいるからである。両地域は、オフィス街と隣接しており、職住接近を容易に実現できる。また都心のどの地域からも20分程度で移動できるので、会食などがあっても、すぐに自宅に戻ることができる。時間を節約したい経営者にとっては、非常に好都合な環境といってよいだろう。
もうひとつはタワーマンションの開発である。最近、都心では大規模なマンション開発が相次いでおり、他地域からの転入が顕著となっている。赤坂と西新宿でも大規模なタワーマンションの開発が行われており、経営者の多くはここに転居しているものと考えられる。
タワーマンションは、一部の人にとっては富の象徴となっているが、好んでタワマンに入るのはそれだけが理由ではない。資金的に余裕のある経営者にとって、タワマンは魅力的な投資対象となっている。タワマンは、土地に対して建物の比率が高く、相続税の節税効果が高いからである。
比較的高齢になった経営者が郊外の家を処分し、利便性の高い都心部のマンションを投資目的で買っている可能性は高い。一部のタワマンは、かなり値上がりしており、値下がりのリスクが節税効果を上回る可能性も出てきている。だが、子供に相続することを大前提にしている人にとっては、値下がりリスクはそれほど気にならないのかもしれない。
実際、東京の郊外では、戸建の売り物件が増えている。従来であれば、高級住宅地と呼ばれるところでは、戸建ての売り物件が広く出回ることなどほとんどなかったが、今は、億単位の物件もたくさん目にするようになっている。今回の調査は社長に限定したものだが、経営者に限らず、郊外の戸建て物件を処分し、より利便性の高い都市部へ移動する富裕層が増えている状況が推察される。