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良質な住宅は豊かさの指標
地球温暖化対策で浮き彫りになる日本の住宅性能の低さ

日本の暖房用エネルギー消費は異様に少ない

ところが、日本の家屋はマンションも含めて断熱性能(特に窓の断熱性能)が著しく低い。全体暖房を使っても効果は非常に薄く、その結果として、マンションであっても積極的に局所暖房が用いられている可能性が高いのだ。以前から、高齢者など体力的弱者における健康管理の面で、局所暖房の欠点が指摘されているが、この状況は一向に改善していないのである。

つまり家庭のエネルギー消費という観点では、日本はすでに雑巾を絞りきった状況にあると考えてよい。ここからさらに40%をCO2を減らすにはどうすればよいのだろうか。政府の資料には「断熱化の推進」と「国民運動の推進」という二つのキーワードが並んでいる。

現在、日本の住宅ストック5000万戸のうち、新しい断熱基準を満たす家は5%未満しかない。この断熱性能を大幅に向上させれば、エネルギー消費のムダはかなり減らせるだろう。局所暖房を複数使用するよりも、効率の高い全体暖房を1カ所で使用する方が、家の環境も改善し、CO2排出量も減らせる可能性がある。

だがこれにはコストという大きな壁がある。5000万戸に対する断熱工事のコストを経済全体としてどう捻出するのか、答を出さなければならないが、今の日本においてそのような大胆な決断ができるとはあまり思えない。一方、国民運動というのは、綺麗なキーワードにすり替えられているが、要は「国民が我慢して努力せよ」という意味である。

結局、日本は後者に傾いてしまうのではないかと危惧している。すでにかなり寒いといわれる日本の家屋で、さらに暖房を削り、省エネを実現する形になりかねない。断熱性能が低いと冷房の効率も下がるので、夏は、逆に暑さを我慢するという話になるだろう。

日本はすでに成熟国家のフェーズに入っており、既存の資本ストックをいかに活用するのか知恵が求められている。地球温暖化対策を前提にした省エネ対策において、思い切って住宅性能の向上に舵を切るのと、国民総我慢大会を実施するのとで、どちらが先進国にふさわしい施策なのかは明らかである。

この問題をきっかけに、劣悪といわれる日本の住宅ストックの質的な向上について、議論が盛り上がることを期待したい。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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