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ロボットが普及すると半分の仕事が消滅するという話の真偽

野村総合研究所が発表した人工知能とロボットに関する調査結果が話題となっている。内容は日本の労働人口の約半数がロボットに置き換えられるという少々センセーショナルなものだが、実際はどうなのだろうか。そしてロボット時代におけるビジネスはどう変貌するのだろうか。

ロボット

野村総研は昨年末、日本の労働人口の約半数が、人工知能やロボットで置き換えが可能との推計を発表した。人工知能やロボットによって置き換わる可能性が高い職種としては、一般事務員、タクシー運転手、レジ係など、いわゆる単純労働がその対象となっている。一方、置き換わる可能性が低い職種としては、アートディレクター、エコノミスト、教員、介護職員などが列挙されている。

この推計は、2013年にオックスフォード大学が発表した研究をそのまま日本にあてはめたものなのだが、実は多くの前提条件が付いている。オックスフォード大学の研究は、職種ごとに、操作性、創造性、社会的相互作用などの項目で評価を行い、人間が行う作業との置き換え可能性を数値化する手法が用いられた。

この評価方法では、操作性がロボットに向いていれば置き換えが容易と判断されることになるが、それはあくまで作業がロボットに向いているのかというところが重要視される。だが実際に人の仕事をロボットに置き換える場合に、もっとも重視されるのはコスト面である。仮にロボットに向く作業であっても、コストが高ければ人間の仕事がなくならない可能性がある。この分析アルゴリズムでは、コスト面は評価の対象外となっており、こうした部分は分析結果には反映されていない。

また、このアルゴリズムでは、創造性を発揮する分野は人間に向いているということが大前提になっている。このため、創造性が必要とされる職種の置き換え可能性は低く計算されている。

しかし、現実には創造性が必要とされている分野にも、ロボットや人工知能が普及する可能性は高くなっている。以前、このコラムにおいてスポティファイという音楽配信サービスのロボット技術について言及したことがあるが、スポティファイは、音楽の再生履歴からその人が好む音楽を探り出し、ドンピシャリの推薦をしてくることで有名である。

人間の感性を分析するのは実はそれほど難しいことではない。現在では人工知能が、絵を描いたり作曲するのは当たり前となっているし、絵のコンセプトを入力すると勝手に絵を描くアプリも登場している。

こうした機能に、流行に関するビックデータを組み合わせれば、いとも簡単に、売れそうなデザインや曲を何百、何千と量産することが可能だ。極めて高い芸術性を要求される分野でもない限り、ロボットへの置き換えは容易とみた方がよい。

当初、ロボットの普及は単純労働を消滅させると思われていたが、現実は必ずしもそうとはいえなくなってきた。むしろ、頭脳労働ではあるものの、単純な知識に依存し、賃金が高いという職種の方が大きな影響を受ける可能性が高いかもしれない。具体的には医師や弁護士、アナリスト、会計士といった職業である。彼等の仕事の大半は、単純な知識に基づいており、容易に人工知能への置き換えが可能である。しかも彼等は高賃金なので多少高価なロボットでも採算が合う。

加谷珪一

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