やはり、今回のエンゲル係数の急上昇は、あまりよいことではなく、日本の家計が悲鳴を上げていると考えた方がよいだろう。そもそも家計が苦しくなっているところに消費税の増税が重なり、食料品の値上げが相次いだ。こうしたことが複合的に重なり、エンゲル係数の急上昇につながっている。
ちなみに、1997年に実施された消費税の5%への増税時には、エンゲル係数の目立った上昇は見られなかった。当時はまだ家計に余裕があり、贅沢品への支出も多かった。確かに消費増税は消費を冷やしたかもしれないが、家計は各品目について一律に消費を減らすことで対応したものと考えられる。つまり食料品を含めて、コストを削減するのりしろがあったということになる。
近いうちに何らかの動きが?
では、日本の家計は支出を切り詰めているのだろうか。その理由は家計の年収が下がっているからである。平均的な世帯年収は過去15年間で15%ほど減少しており、これに伴って家計は支出を切り詰めて対応している。
このところアベノミクス効果で賃金が伸びていると言われているが、現実はそううまくいっているわけではない。賃金の名目値はそれなりに上昇しているものの、物価上昇を考慮した実質賃金はむしろ下がっているからである。
賃金がそれなりに上昇しても、物価も上がっていく状況では、当然、家計は財布の紐をきつく締めることになる。消費が増えないので、賃金も上がらず、これがまた消費を引き締めるという悪循環である。
ではどうすれば、負のスパイラルから脱却できるのだろうか。消費や投資を拡大させるか、物価上昇をストップするのかの二者択一となるが、デフレ脱却を目指したアベノミクスにおいて、インフレ政策の撤回はあり得ないだろう。日銀はむしろマイナス金利政策を導入し、さらに量的緩和策の効果を高めようとしている。
マイナス金利は、今のところ、コスト面ばかりが意識され、あまり効果を発揮していないように見える。だが、本来であれば、マイナス金利政策の導入は、リスクマネーへのシフトを促す政策であり、現金を保有しているよりも、消費したり投資する方が有利になるはずである。
世界経済の停滞懸念もあり、全世界的にリスクを取りづらいタイミングとなっている。そうであるが故に、内外の投資家も動きが鈍い。
しかし、エンゲル係数の急上昇が示す通り、日本の家計はかなりギリギリの状況に追い込まれている。アベノミクスも頓挫してしまうのかの分岐点に差し掛かっているともいえる。エンゲル係数の急上昇は、経済政策の大きな転換点が近づいていることを示唆しているのかもしれない。
それが量的緩和策のさらなる追求なのか、アベノミクスからの撤退なのかは今のところ何ともいえない。だが、近いうちに何らかの動きがあることは見込んでおいた方がよいだろう。