共和党と民主党の最大の違いは、社会保障政策や税制などにおいて顕在化することが多い。トランプ氏は、たびたび社会保障制度の拡充や富裕層への増税、関税引き上げなどについて言及しているが、これは従来の共和党の主張とは正反対のものである。
共和党は元来、資本家層を支持基盤としてるため、基本的に富裕層への減税に前向きである。また大きな連邦政府に対して否定的な人が多く、小さな政府を標榜することが多い。このため、手厚い社会保障政策についても否定的だ。実際、オバマ政権が進めてきた国民皆保険制度(オバマケア)については猛反発してきた。
また共和党の保守派の中には宗教右派の人も多数含まれている。彼等は人工中絶や同姓婚に対して強く反発しているが、トランプ氏はどちらについても容認している。またカトリック教会のフランシスコ法王からも強く批判されており、宗教右派とは遠い位置にいる。
トランプ氏が宗教は一定の距離を置き、増税を行って社会保障制度を充実させることになれば、それはまさにオバマ政権の政策ということになる。
米国は孤立主義に向けて動き始めている?
さらに興味深いのは外交政策である。共和党には、中東問題をはじめとする国際問題に対して積極的に関与すべきと主張する政治家が多い。こうした価値観は実は民主党も同じであり、こうした積極外交姿勢は、党派を超えた共通の価値観といってよい。
だが、歴代政権の中で唯一の例外がオバマ大統領である。オバマ氏は中東問題には関与せず、米国は単独でやっていけばよいという方向性を折に触れて打ち出してきた。オバマ氏がシリア問題に対して極めて消極的なのは有名な話だ。
実は、トランプ氏の主張にもこうした孤立主義的な傾向がある。トランプ氏は日米安保条約の見直しに言及したり、中東問題に無関心など、積極外交を望んでいないように見える。米国はシェールガスの開発によって、すべてのエネルギー自給できる環境にあり、極論すると国際問題にかかわる必然性がなくなっている。実際、そう考える国民は増えており、仮にトランプ氏が大統領にならないにしても、こうした動きは無視できないレベルになっていると考えた方がよいだろう。
米国が新しい孤立主義の時代に入ったのだとすると、日本への影響は大きい。日本はこれまで何も意識することなく、日本製品を米国市場で売ることができた。日本は自国市場の開放には消極的だが、米国は無条件で日本製品を受け入れてくると信じ切っている。こうした常識はもしかすると今後は通用しなくなっているかもしれない。