エンリッチのみなさんが最も関心を寄せていることは何なのか?
前回(vol.1)では富裕層ビジネス研究会を主宰する船井総合研究所の小林昇太郎氏へのインタビューをお届けした。そこでは『縁』を広げながら、仲間とつながることに時間を使っている傾向が見えてきた。今回はエンリッチな方へのインタビューを通じて、さらなる本音に迫ってゆく。
10億の資産を増やすより娘の成長を見守ることのほうが楽しい
お話を伺ったのは、最近、某大手銀行を退職し、独立したAさんだ。若干36歳で保有する資産は約10億円。現在は、複数の会社の役員を務めながら、財務をチェックしたり、戦略コンサルを担当しているのだという。しかし、30代半ばでどのように資産を築いていったのか。まずは、そこからお話を伺った。
「会社では資産運用を担当したのですが、外資系ではありませんでしたし、給料が特別良かったわけではありません。もともと大学で金融を研究していたのですが、入社して5年目に3000万円ほど資金ができたのをきっかけに、本格的に投資をはじめました。銀行員だったので、株式投資や信用取引が禁止されていたこともあり、やっていたのは投資信託だけ。それ以来、一切、給料に手を出すことなく、投資のインカムゲイン、キャピタルゲインだけで食べています」
投資信託だけで、そこまで資産を増やしたとは恐れ入る。
「かなり希有な例だと思いますよ(笑)。いまは会社を辞めたので、信用取引もしますが、当時は投資信託だけでしたね。ちなみに不動産投資は、いまも手を出しません。不動産は税金など出て行くお金も多いですし、値上がりするのも遅い。それに僕は金融屋なので、ロジックは理解できても、不動産自体の善し悪しを判断できません。わざわざ不得手な不動産に手を出すくらいなら、得意分野に投資したほうが効率的です。ただ、ここまで来るまでにはたくさん失敗もしましたよ。学生時代には、親のお金を溶かしてしまったこともありましたから」
いまでは着々と資産を増やすAさんだが、何を情報源にしているのだろうか?
「新聞やテレビなどのメディアはまったく参考にしません。インターネットも自分で情報を取りたいときにしか、見ないですね。情報を仕入れたいときは、ブルームバーグやロイターなどを確認します。メディアが報じる時点では遅いですから。あと、当然ながら証券会社の言うことも聞きません。彼らの目的は手数料収入を得ることであって、お客さんを儲けさせることではありませんから。それに彼らが投資に対して、いかに素人かは、僕は身を以て理解しているつもりです。銀行員時代にはよく彼らを招いて勉強会をしていましたから」
本当のVIPがその交流会には来るのか、見極めが肝心
Aさんの交友関係は広い。VIPと会って、情報交換することもしばしばだという。しかし、自分から出向いて行くことはほとんどないと断言する。
「会社を辞めてからは、金融について教えてほしいと呼び出されることもあります。聞かれれば、僕が知っていることは何でも話します。VIPの方と会食する機会も多いですよ。ただ自分から交流会に出ることはほとんどないですね。紹介される人に会うだけで精一杯ということもありますが、交流会に本当のVIPが来ないケースも多いですから」
ただ会社員時代から積極的に人脈作りをしていたという。
「会社員の頃は、富裕層担当でもありました。そのため、富裕層の方々がやっている趣味を調べて、会う機会を増やしたり。船舶の免許も取りました。銀行員も遅くまで仕事をすることが多いので、どうしても会社の同僚と飲みに行くことが増えてしまいます。でも、それは避けたかった。若手起業家が集まるセミナーを手伝うなど、積極的に活動していましたね」
このときのつながりが、いまに生きていると語る。36歳という若さで富を得たAさんだが、いま最も関心があるのは子育てだという。
「お金が増えても、とくに嬉しいと感じることはありません。資産が減っても、同じです。ただ数字が下がっただけ。負けて悔しいって思っているようでは、感情に流されてしまうので、むしろダメですね。そんなことよりも、娘が話せるようになったとか、成長を実感することのほうが幸福感もあります」
いま日本橋に物件を探しているというが、それも娘との時間を増やすためだ。
「新しい事務所を構えて、そこに保育施設を作ろうと思っているんです。娘に働いている姿を見せることができるし、それが一番の教育だと思ってます。外国人を雇えば、英語を自然と覚えてくれるはず。言語は大事ですからね。日本語しか話せないと発想も縛られます。でも、多言語が話せると、違う発想ができる人間になると思っています」
金融に対する知識やビジネスとは何なのか?自分なりの考えを積極的に伝えていきたいのだとAさんは語る。
「ときどき大学でビジネスコミュニケーションを学生に教えています。知識を若い人たちに伝えることで社会に還元できればと思っています。寄付など金銭での社会貢献にはあまり興味がありません。それでは社会は変わらないと思ってますし、若者を教育するほうが長い目で見れば意味があると思います。いまの学生は考え方が凝り固まっているように思うこともあります。もっと発想が広がるよう、僕の経験を伝えてサポートしていきたいですね」
お金よりも優先したいことが、Aさんにはあるようだ。