ベンチャー経営者こそ、無自覚のストレスを抱えている?
「私の経験では、事業を興し一代で急成長させてきたベンチャー企業の経営者に、無自覚のストレスを抱えている人が多いように感じます」
それは、事業を拡大するなかで「経営者とはこうあるべき」という固定概念に縛られ、成功者としての自負もあるので自己否定が困難だからだという。
「自己愛が強くなりすぎると、何が問題、悪いかわからず、いわゆるワンマン社長になりがちです。自分が正しいのでカウンセリングを頼るケースも少なく、利用したとしても私が社長の意に反する発言をすると、そっぽを向くこともよくありました。ですが、自己を見つめ直すことはさらなる成長につながるので、そのきっかけとしてカウンセリングを利用してほしいです」
ちなみに、無自覚とはいえストレスを抱えた経営者の場合、他者に攻撃的になったり、あるいは日常生活が乱れることも。こういった点は自覚したい。
「罵詈雑言に耐えかねた側近の方がカウンセリングに訪れたことも。そこで伝えるのは『社長が怒るのは不安があるから』ということ。あなたに向けられた言葉でも個人的に受け取らず、自分がダメだと思わないように促すことで、ストレスの軽減につながります」
見えないストレスを自覚するためのサイン
向後氏は、日常生活のなかでストレスや悩みを自覚するためのメソッドや解消法についても教えてくれた。ポイントを、以下にまとめてみよう。
■悩みやストレスのサイン
・胃が痛い、顎に力が入る:怒りをためている
・背中が卵型に丸まる、のどが詰まる:不安がつのっている、防衛的になっている
・胸が苦しい、喉が締め付けられる:悲しみ
■ストレスを察知するには?
朝起きたら身体全体の力を抜いて、リラックス状態を確認すること。日中はそこからどう変化しているのかチェックすれば、ストレス度合いが見えてくる。
■日常でできる、ストレス解消法
・週に一度、30分~1時間程度のジョギング
適度な有酸素運動で頭が空っぽになり、気持ちがラクに。運動効果で寝付きもよくなる。
・あえてキョロキョロする
周りを見渡すことで気分転換。思わぬ情報が目にとまり、新たなアイデアが浮かぶことも。
最後に、経営者へ次のようなメッセージをいただいた。
「アメリカでは株主に対する責任や、短いタームで成果を求められることが、エグゼクティブの大きなストレス要因です。日本でも近年は成果主義が横行していることから、同様のことが言えそうです。ですが、原因がわかれば対策も講じられるというもの。適度にリラックスしたり運動をするなど、軽減のための習慣を身につけることです。また、経営者に限った話ではありませんが、アメリカでは『ユニークであれ』、日本では『同じであれ』という強迫観念も、ストレスにつながります。特に日本は同調圧力が強く、『出る杭は打たれる』のが日常茶飯事。個性を発揮してきたベンチャー経営者にとって、苦痛でしかありません。ですが、周りと同じである必要はなく、むしろ『違う』ことはビジネスの大きな強みですから、気にしすぎないことです」
エグゼクティブゆえの悩みは多種多様で多岐に渡るもの。ストレス社会といわれて久しいが、そこから逃げることはできない。ならば、上手に向きあい対処をしながら、最適なメンタルヘルスを手にしていきたい。
臨床心理士/「ハートコンシェルジュ」カウンセラー
神奈川県出身。石油会社勤務の後に渡米。神奈川県出身。石油会社勤務の後に渡米。CIIS(カリフォルニア統合学大学院)で統合力カウンセリングを専攻。サンフランシスコ市営のRAMS(Richmond Area Multi-Services)他でカウンセラーとして勤務。現在は、アライアント国際大学/臨床心理大学院京都サテライトキャンパスで臨床心理を教えている。著書に『自分をドンドン傷つける「心のクセ」は捨てられる!』など。
「ハートコンシェルジュ」(http://www.heartc.com/)