ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

独立や起業で失敗する人のパターン

交渉は事前に決着が付いている

相手との交渉も同じである。大きな組織の中で仕事をしていると、あまり意識せずに、見過ごしてしまうのだが、実は世間でイメージされているような交渉というものは存在しない。多くの人が交渉について誤解しており、これがビジネスに致命的な影響を与えている。

交渉力に関する誤解の中でも代表的なものが、ゴリゴリと相手をやり込めることが交渉だという認識である。「ああ言えばこう言う」というやり取りが上手なことと、交渉そのものが上手なことを混同してしまっている。

確かに「ああ言えばこう言う」というやり取りがうまい人が交渉で得をするケースは存在する。しかし、それはほとんどの場合、格下を相手にした場合の単純な交渉であって、対等あるいは格上の相手との交渉では、こうしたやり方はほとんど通用しない。

では本当の意味での交渉力とは何だろうか。それは、自身の立場を認識しつつ、相手のニーズを探り出す能力ということになるだろう。
 
交渉とは自分が欲しいものと相手が欲しいものを並べ、どれを捨ててどれを取るかというゲームである。相手に吹っかけたり、やたら強気に出たり、泣き落としたり、というのはすべて戦術的なテクニックであって交渉の本質ではない。

交渉ごとの8割は、双方の力関係によって最初から結果が決まっている。交渉ごとをうまく進めるためには、この事実をしっかりと認識しておく必要がある。吹っかけや泣き落とし、といった現場のテクニックは、あらかじめ決まっている勝負の中で、どこまで自分に有利にもってくるかという、細かいテクニックに過ぎない。

交渉を進めるのが下手な人のほとんどが、最初からほぼ決まってしまっている勝敗についてあまり認識していない。五分の状態で交渉がスタートすると思っている人も多いのだ。そもそも勝てない勝負を挑んでいたり、ムダな戦い方をしていたり、最悪の場合には、相手の作戦に翻弄されることになってしまう。

自分の要求と相手の要求がある程度明確に整理できれば、交渉はそれほど難しいことではない。交渉が上手な人は、ほぼ例外なく事前に交渉をシミュレーションしていると思ってよいだろう。

自分の要求に対して相手がAと返してきたら自分はDと返事する。相手がBと返してきたら諦めてそれを受け入れる。相手がCと返してきたらその場で交渉を打ち切り、後日再度交渉する。A、B、Cのどれにも該当しない場合には、返事をせずに持ち帰る、などと、あらかじめ自身の行動を決めているのだ。

このようなことができるのも、相手が何を望んでいるのか、自分が何を望んでいるのか、明確に理解できているからに他ならない。どこまでなら相手は情報する可能性があるのかを熟知している。

交渉で負けてしまう人は、相手が予想しない要求を出してきたときに、返事をせず持ち帰るという当初の予定を守らず、その場で応対してしまいがちである。そうなってしまう最大の理由は、実は、相手と自身の要求を整理できていないからである。

加谷珪一

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