感謝とお礼の違い
時間とお金の重要性を認識するようになってくると、人に対する謝意の表し方も違ってくる。富裕層の人は、人に対してあまり感謝しない。それは、富裕層が自分勝手なので人に感謝しない人という意味ではない。
富裕層の人は、時間とお金の価値をよく知っているので、本当に他人に報いようという場合には「感謝」ではなく「お礼」をするのだ。
資産家でかつては政治家だったこともある糸山英太郎氏(会社の乗っ取りでも有名)は、昔、ある証券マンからインターネットによる株取引のやり方を詳しく教えてもらった。
当時株のネット取引は始まったばかりで、どの会社もサービスを提供しているというわけではなかった。糸山氏にネット取引を教えた証券マンが所属する会社も、まだネット取引のサービスを提供していなかった。
だが糸山氏から「ネット取引について雑誌で見たけどどういうものなの?」と聞かれたその証券マンは、パソコンを取り出し、他社のサービスを使ってネット取引のやり方について懇切丁寧に説明したという。
彼は、自分の会社ではサービスを提供していなかったものの、自身の勉強と情報収集のために他社に口座を開いていたのである。糸山氏はネットの大きな可能性を即座に感じ取り、その後の事業活動にすぐに生かすことになったという。
糸山氏はネット取引について教えてくれた証券マンに「感謝」しなかった。「お礼」をしたのである。数億円の取引注文をポンとその証券マンに発注したのだ。その証券マンが支店において伝説的なトップ営業マンになったのはいうまでもない。
軽々しく「感謝」「感謝」と口にする人は、基本的に人に何かをしてあげようという意識は薄い。「お礼」するという行為は自分に対しても他人に対しても厳しくなければ実現できないものである。
身銭を切るわけだから、本当に貢献した人にしかお礼などできるわけがない。そのことは逆に、自分は他人からお礼をされるだけのことをしているのかという自問自答につながってくる。
こうした自分自身に対するシビアな感覚は、必然的に交友関係にも影響を与えるようになってくる。多くの人と何となく付き合うということはしなくなるのだ。
こうした状況は、ある人からみれば友達がいないと映るかもしれない。実際、富裕層の中にも、ホンネを言える人がいないという悩みを抱えている人もいる。富裕層の交友関係はなかなか複雑なのである。
*この記事は2015年3月に掲載されたものです
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