ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

妖しい香りも漂う欧州の資産家たち

エンリッチ 加谷 欧州リッチ1

リッチになるための、もっとも手っ取り早い方法は、ベンチャー企業などを創業して株式の上場益を得たり、株式投資で大成功することである。フォーブスの世界長者番付においても上場長者の名前が並ぶ。

米国にはこうした資産家が多いが、欧州の場合には少し様子が違っている。すでに存在する事業を買収し、自身の影響力を拡大していくやり方で、資産家の仲間入りする人もいる。少々不透明で、妖しい香りも漂う欧州の資産家像について触れてみたい。

高級ブランドを牛耳るアルノー氏の手腕

今年の4月、高級ブランド最大手のLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)をめぐって、あるニュースが流れた。それは、同社を実質的に支配するアルノー家が、クリスチャン・ディオールを完全子会社にするというものだ。これだけではよく意味の分からないニュースに聞こえるかもしれないが、事情通にとっては実に興味深い話である。

アルノー家は、LVMHを支配する欧州でも指折りの資産家だが、当主のベルナール・アルノー氏は代々にわたった高級ブランドを所有していたセレブというわけではない。アルノー氏はもともと不動産業が本業で、ブランド企業を次々買収することで、最終的に多くの高級ブランドを擁するLVMHグループを作り上げた。狙った獲物は逃がさないともいわれており、その豪腕さから一部の人たちからはかなり恐れられている。

当然のことだが、既存のブランド企業を買収するためには資金が必要となる。アルノー氏はこれらを丸ごと買収できるような資産家ではなかったのだが、どうやってその資金を調達したのだろうか。それは借り入れである。つまり借金をして高級ブランドを次々に買収し、最終的にはブランドの一大帝国を築き上げた。

だが、借金で資金は用意できたにせよ、それぞれにオーナーがいる高級ブランドを次々と傘下に収めることなどそう簡単にできるわけがない。アルノー氏がどのような手法を用いたのか、本当のところは不明だが、水面下では相当な駆け引きがあったことは想像に難くない。

複雑な交渉の一旦は、日本を代表するデザイナーの一人である高田賢三氏が、自身のブランドであるKENZOをLVMHに売却するプロセスの中にも垣間見ることができる。

高田氏は、商売には疎かったことから、会社の経営を切り盛りする共同経営者を迎えてKENZOを運営していた。その効果もあってKENZOは大きく成長することができたのだが、やがてその共同経営者が、徐々に会社を乗っ取るような動きを見せ始め、高田氏はこの共同経営者と対立することになってしまった。

高田氏は共同経営者の処遇に苦慮し、知り合いのコンサルタントや弁護士などに相談したところ、彼らはアルノー氏率いるLVMHへの売却話を持ちかけてきたという。アルノー氏と交渉した結果、高田氏は持ち株をLVMHに売却することを決断した。

加谷珪一

Return Top