経済的に豊かになってくると、人は静寂な環境を望むようになる。高級住宅は遮音性能が高いサッシが標準装備となっているし、車内の静粛性は高級車のもっとも重要なスペックのひとつである。飛行機のビジネスクラスが基本的に前方にあるのは、後方と比較して騒音が少ないからである。
付加価値が上がると作業よりも判断の比率が上がってくる
静かな場所を好むようになる理由は明確で、付加価値が高い仕事に従事している人ほど、分析や決断といった思考を用いた仕事をしている割合が高いからである。
静粛性を実現するためには、それなりにコストがかかる。遮音性能が高いサッシは当然、価格も高い。トヨタが最高級車レクサスの前身車種であるセルシオを開発する際、振動による音をできるだけ発生させないよう、ネジ1本のレベルから部品の見直しを行ったとされている。
だが、仕事が生み出す付加価値が高ければ、それだけのコストをかけても十分にお釣りが来る。経済的に豊かになると静粛な環境を維持することが可能となり、それが次の富を生み出すので、良い循環が回り始めるという図式である。
この話についてあまり深く考えずに受け止めてしまうと、ごく当たり前の結論に思えるかもしれないが、ここには成功に関する重要なヒントが詰まっている。
実は静粛な環境を求めている人は、経済的に豊かになったので結果的に静かな環境を構築できるようになったわけではないのだ。もちろん静かなオフィスで仕事をすることができたり、ビジネスクラスに乗れるのは、成功した結果であることは間違いない。
だが、成功者の中には、経済的に豊かではない時から、できるだけ良好な環境を構築しようと努力してきた人が多い。本コラムの読者の中にも、思い当たるフシがあるのではないだろうか。