「余計なことを考えず、目の前のことに集中しなさい」という言葉は多くの人が耳にしてきたのではないだろうか。だがこの言葉には多くの間違いが含まれている。余計なことを考えないというのは、思考停止と紙一重であり、こうした価値観が強すぎると、自身の労働力を時間単位で切り売りする人生にまっしぐらとなってしまう。
高い集中力を持つことは成功の必須要件だが・・・
最初に断っておくと、物事に集中できないというのは、あらゆる生産活動において致命的なことであり、高い集中力を発揮するというのは成功の最低条件である。これは説明するまでもないだろう。本コラムの読者は多くが成功者なはずなので、当然だが、高い集中力を持っているはずだ。
ここで取り上げているのは、今、目の前で片付けなければならない仕事に集中しつつも、それ以外のことについて、あれこれと考えをめぐらせることの是非である。
筆者は、人よりも高い成果を上げるためには、常に多くのことに対して考えをめぐらせるのは必須だと考えている。そして多くの成功者が同じような感覚を持っている。
あらゆるビジネスや投資に共通した話だが、物事をうまく進めるためには、常にリスクについて敏感になる必要がある。どれだけ大きな仕事をしても、別のちょっとしたトラブルが足を引っ張るというのはよくある話である。大胆にプロジェクトを進めながらも、周辺リスクについて細心の注意を払っているからこそ、プロジェクトが無事成功するのである。
余計な事を考えず、目の前に集中すべきというセリフは、たいていの場合、心を動揺させる何らかの出来事が周辺で発生している状況で発せられる。自身が勤務している会社で不祥事があった、自社がM&Aの対象となっている、といったケースがこれに該当するだろう。
確かにこうしたニュースに接したことで心が動揺して仕事が手に付かないというのは論外だが、今、起きている状況を正しく判断せずに、目の前の仕事を一心不乱にこなすという行為も危険極まりない。何か大きな出来事が起こっているのなら、可能な範囲で情報収集と分析を行い、それを目の前の仕事に反映させるのは当然のことである。