ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

成功できる人は「ピンチをチャンス」などと軽々しく言わない

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「ピンチをチャンスに変える」というのはよく聞くセリフである。だが現実にこのセリフを発している人を見ると、首をかしげざるを得ないことが多い。年功序列で昇進したものの、業績悪化で対応に苦慮しているサラリーマン社長や政府関係者などがよく口にしている。

ピンチをチャンスにはあくまで結果論

ピンチをチャンスにというセリフのどこがいけないのだろうか。本コラムを読んでいる皆さんは、ほとんどが成功者だと思われるので、一度や二度は、それなりの修羅場をくぐっているはずだ。こうした厳しい経験を積んだ人なら分かるはずだが、ピンチというのはたいていの場合、本当にピンチであり、それをくぐり抜けるためには、それこそ決死の覚悟が必要となる。

ピンチに遭遇した時は、とにかく危機的な状況に対処して生き抜くことがすべてであって、悠長に「ピンチをチャンスに」などというセリフを吐いている余裕はない。

人間というのは不思議なもので、大きな覚悟を決めて物事に取り組むと、出口がまったく見えなかった状況でも、不思議と出口が見つかるものである。

日本には「火事場の馬鹿力」という慣用句がある。火事のような非常事態が発生すると、普段からは想像もできないような力を発揮することのたとえだが、危機的な状況の中でも出口が見えてくるというのは、この話に近いかもしれない。

つまりピンチがチャンスに変わるのはあくまでも結果論であって、方法論ではない。「ピンチをチャンスに」などと悠長に言っていられるのは、実際には大したピンチではないのか、状況を把握できていないのかのどちらかであり、いずれにせよリーダーとして能力に疑問符が付く。

同じようなキーワードに底力というものがある。

日本では何かと底力というキーワードが多用される。たいていの場合、劣勢になっている状況を正当化するためにこの言葉が使われている。

ビジネスや投資に真剣に取り組んだ経験のある人なら、やはり直感的に理解できると思うが、ビジネスや投資というのは一種の戦争であり、勝利できなければ、敗北という形ですべてを失うシビアなゲームである。「劣勢だが、底力を発揮してがんばろう」などと言っている場合ではない。

どうしても、この底力というセリフには、他人事というか、自分は関係ない、少なくとも今は責任を負う必要がないという、事なかれ主義の匂いがつきまとう。

加谷珪一

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