ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

ストック思考が徹底的に身に付いている

教育にかけるお金や仕事上の貸し借りも投資の一種

お金を金融商品に投じることもビジネスのひとつだが、こうした運用ビジネスは、元本が消滅するリスクは少ないものの、得られる利子や配当も小さいので、十分な収益を得られないという欠点がある。つまり投資による運用というのは、相当な額の資本がないとあまり意味をなさない。

ファンド運用と比較して、さらに高いリターンを得ようと思ったら、店舗や工場など実物資産を使ったビジネスにシフトせざるを得ない。一般的に同じ金額を社債に投じるよりも、店舗や工場に投じた方が得られるリターンは大きいが、当然のことながらリスクも大きくなる。店舗や工場に投じた1000万円は事実上、その瞬間に消滅してしまうからだ。

社債であれば発行体が倒産しない限り、同じ値段で売却できる可能性が高いが、店舗や工場の再販売は難しく、事業収益から元本を回収しなければならない。確実に高い収益を得られなければ、初期投資がすべてムダになってしまうので、事業領域については吟味に吟味を重ねる必要がある。

最終的に実業家というのは、得意、不得意、好き嫌い、市場環境など多くの要素について検討し、もっとも効果的と思われるプランにお金を投じることになるわけだが、実業家が子どもにお金を託すのは、この感覚を早いうちから身につけて欲しいと考えているからである。

何かのプロジェクトを行うためには、まとまったお金が必要であり、投じたお金に対して、どれだけの利益を得ることができるのかという感覚こそが資本主義の基礎である。実業家の子どもは、高いビジネスセンスを持っていることが多いのだが、その理由は、親によるこうした実践的なトレーニングが影響している可能性が高い。

教育にかけるお金も同じ感覚である。

実業家の親は、子どもにかけた教育費も、累積でいくらだったのか子どもに示す傾向が強い。つまり子どもの教育費も資本投下であり、その資本投下に見合う稼ぎをどう獲得するのか、自分自身で考えさせるのだ。

このような感覚が徹底されると、ビジネスの貸し借りについても違った見方ができるようになる。

ごく普通の人は、貸し借りを貸し借りとか考えないが、これを、お互いへの資本参加だと考えれば、その意味も変わってくる。借りる一方で、相手にリターンをもたらさない人は、いずれ、資本市場の中で信用を失い、貸し借りができなくなってくる。

時間がかかっても、自分が受けた借りに対してしっかりとリターンを提供できた人は、さらに高い信用を得られるので、より大きな貸し借りができるようになるのだ。

*この記事は2019年8月に掲載されたものです

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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エンリッチ編集部

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