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ネットの誹謗中傷と成功者マインド

「有名税」という奇妙が概念が存在する理由

本コラムの読者の方なら直感的に理解できると思うが、ビジネスなどで成功できる人は、自分より成功している人を妬んだり、攻撃することはほとんどない。

成功者も人間なので、羨ましい、妬ましいという感情は持っている。だが、相手を妬んだところで自分の立場が上がるわけではなく、むしろ、成功者がなぜ成功できたのか知りたいという欲求の方が大きい。結果として、冷静に成功者のノウハウを吸収することができ、これが自身のステップアップにつながるのだ。

日本は米国など諸外国に比べて貧富の差が少ないと言われている。確かに日本の所得税は累進課税となっており、高所得者に重い仕組みだが、欧州と比較すると制度的に富の再配分が強制的に行われているわけではない。生活保護の水準が極めて低いなど、むしろ弱者に対しては冷たい社会であるともいえる。日本において格差が少ないのは、超富裕層が少ないことが最大の要因である。

つまり日本は経済的に成功するのが難しい国ということになるが、その理由のひとつと考えられるのが上記のようなマインドである。

成功した人を見た時、「自分もそうなりたい」と感じるのではなく、その人を妬ましく思い、ある種の罰を受けることを望む人が多いため、他人の成功をバネにすることができない。結果として新しいビジネスにチャレンジする人も少なくなってしまう。

今回の木村さんの出来事を受けて、多くの著名人が「これからはもう泣き寝入りはしない」「必要に応じて法的措置を取る」と宣言しているのは、日本社会によい効果をもたらすと筆者は考えている。その理由は、犯罪あるいはそれに類する行為については加害者が責任を取るべきという原理原則もあるが、それ以上に、成功者が成功したことに対して罰を受けるといった奇妙な風潮を排除するきっかけとなり得るからである。

成功者はその成果をアピールすべきだし、チャレンジする人は、成功者の発言から多くを学び、自分のキャリアに生かすのが望ましい。こうした健全な風潮が定着すれば、日本経済全体にもよい効果をもたらすはずだ。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

連載コラム

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日本はもはや「後進国」
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