ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

あの世にお金を持っていく

エンリッチkaya2010

「お金はあの世には持って行けない」とよく言われる。死んでしまったらお金は使えないので、多額のお金を残して死ぬのはバカだという意味である。地味な生活をしていた老人が孤独死し、1億円の預金通帳が見つかったという話を耳にすることがあるが、こうしたニュースが流れると、決まって聞こえてくるのがこのセリフである。

だが、本コラムの読者の中には、この話について違和感を感じた人も多いのではないだろうか。

確かに死んでしまったらお金は使えないが、たいていのお金持ちはお金をあの世に持って行くつもりでお金を管理している。死ぬまでにお金を使わなければ意味がないというのは、実はお金をあまり持っていない人の発想であり、資産家というのは、多額の資産を残して死んでいくのが普通である。

これは子どもに財産を相続させるという話とはまた別次元と思って欲しい。死去する段階でも多額の資産を抱えているのは、お金というものが持つ本質的な価値や機能に関する根源的な理由によるものだ。

お金というのは使うためにあるのではない

死ぬまでにお金を使わなければ無意味だと考えている人は、基本的にお金というのは消費するために存在すると考えている。平均的な収入しかない人の場合、労働を通じて稼いだ金額の大半は、生活に必要な消費に消えてしまい、貯金できるのはごくわずかである。

大方の人にとって、お金というのは生活に必要となるモノやサービスを購入するために存在しているので、現実問題として、お金は使わなければ意味がないというのは、ごく自然な発想といってよいだろう。

だが、一定以上のお金を持つ人にとってはお金が持つ意味や機能というのはまるで違ったものになる。資産家にとってお金というは、お金を増やすための道具であり、支出するための存在ではないのだ。

例えば10億円のお金があれば、これを優良な企業の株式や債券で運用することで、それほどのリスクを取らずに年間3%程度の利回りを確保できる。10億円を3%で運用すれば毎年3000万円の不労所得が得られるので、このお金はまったく気にせず消費に回すことができる。運用で得られたお金の範囲内で消費していれば、元本がなくなることはないので、安心して消費生活を続けることが可能だ。

つまり資産家にとってお金というのは、支出するためではなく、増やすために存在している。もう少し分かりやすく言うと、資産家にとってお金は2種類ある。ひとつは運用するためのお金、そしてもうひとつは消費するためのお金である。

資産家が亡くなった時に残った大金というのは、運用するためのお金であり、そのお金から得られていた運用益については、毎年、バンバン消費していた可能性が高い。この仕組みが理解できるのかどうかが、資産家とそうでない人を分ける境目となる。

多額の資産を形成できる人は、若いうちからお金が持つ「増やす」機能について認識している。世の中の資産家の大半がそうだが、毎年の収入であるフローをコツコツと貯めて、巨額のストックを形成したわけではない。フローの中から貯蓄分を捻出するのは当然のことだが、ストックそのものを拡大させることで、最終的に大きな資産にしている。

起業家はその究極的な例だが、自分で会社を設立し、その会社に自分自身で出資している。出資金というストックは事業が成長して株式を上場する段階になれば、何千、何万倍にも価値が増大している。毎年のフローを溜め込んで大きな資産を作っているのは、極めて高額のギャラを稼ぐ、一部の芸能人くらいなものだろう。

お金がない段階では、フローからストックに回せる金額はたかが知れている。だが、運用によってストックの金額が増えてくると、仕事によって得られたフローに加えて、ストックの運用で得られたフローも大きくなってくる。これらをストックという形で再投資していけば、10年後、20年後には、複利の法則によって資産は相当な額に膨れあがるのだ。

加谷珪一

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