ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

なぜファッションに気を使うのか?

エンリッチkaya2011

ファッションに気を使っているお金持ちは多い。趣味は人それぞれなので、一概には言えないが、派手な服装をしている割合が高いのも事実である。お金持ちの人がファッションに気を使い、目立つ服を着るのは、自己顕示欲が異様に高いからではない。もちろん、そうした目的の人もいるだろうが、現実はもっと合理的である。

階級がある国とない国の違い

服装と、その人が属している社会階層の関係は国によって微妙に異なる。英国のように現代でも階級がしっかり残っている国の場合、だれがどの階級なのかはわざわざ説明しなくても分かるので、自身を外見でアピールする必要性はない。

英国のミドル階級(日本でいうところの庶民という意味ではなく、ある程度の資産を持つアッパーミドル層のこと)の中には、時代の変化で没落し、一般的な中産階級に近い生活を送るようになった人もいる。だが、会話の内容などから階級はある程度、推測できるので、自分を良く見せるために、ファッションにおかねをかける必要はないのだ。ドイツなどでも元貴族の人は名前で分かったりするので、やはり見た目でアピールする必要性は薄い。

こうした国々でも、ゼロから成功した人は、相手から成功者として見られたいという気持ちがあるので、服装には気を使っている。このカルチャーがもっとも強烈なのが、階級を廃止してしまった米国だろう。

米国では形式的には階級は存在していないので、どのような服装をして、どんな車に乗り、どの家に住んでいるのかが、ステータスを表わす唯一の記号となっている。逆に言うと、成功者であるにもかかわらず、地味で目立たない服装をしていたり、良い車に乗っていないと逆に怪訝そうな顔をされることすらある(これはこれで困ったものだが)。

階級がない米国の場合、見た目がすべてであると考える人が多く、当然だが、服装にはお金をかける必要があるし、成功者として見られたければ、それなりの格好をする必要がある。

今の日本はどちらかというと米国に近い状況といってよいだろう。

かつての日本には明確に階級が存在したが、明治維新によって特権階級であった貴族と士族の身分は廃止された。そうなってくると、自身の社会階層を表現する手段は、分かりやすいものにならざるを得ないので、結局のところ住まいや服装といったところに集約されてくる。

実際、お店などの対応ひとつとっても、良い服を着ている客にはより積極的に対応するというのが現実なので、お金持ちにとってみれば、目立ちたくない時を除けば、わざわざお金がないフリをする必要はない。これは接客する側のことを考えてのことという意味合いもある。

筆者の知人は、お金がなさそうな格好で、投資用の不動産を探していた。それほど買う気はなく、とりあえず物件を見て情報収集するつもりだったので、そのような格好になったのだが、幸か不幸か、見ている物件の中でどうしても欲しいものが出てきてしまった。

不動産業者の担当者に買いたいという意思を伝えると、「ローンはそう簡単に審査が通るようなものではありませんよ」「頭金を払った後に購入できなければ没収されてしまいますよ」「頭金を期日までに用意できないと取引が白紙になってしまいすよ」と何度も何度も説明されてしまった。

仕方なく、「自分は資産家で投資用の物件を探している。基本的にキャッシュで買うつもり」と説明すると、担当者は血相を変えて「失礼しました」と謝ったとのことである。こうした状況はバツが悪く、最初から買う気と能力があると客に見えた方が、お互いのためになると彼は考えるようになった。結局のところ、ある程度、自分の立場を明確に示す服装をしていた方が、余計な気を使わずに済むのだ。

加谷珪一

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