世間では、「商才がある」「商才がない」という言い方をする。一般的に商才があるというのは、商売のアイデアを思いついたり、営業などビジネスに直結する仕事が手際よくできることを指していると思われる。もちろん、こうした部分における能力の違いというものは存在しているが、成功者が皆、才能だけでチャンスをモノにしたわけではない。
新しいビジネス・アイデアというのは、大抵、他の人も思いついているものであり、真にオリジナルなものなどそうそう存在しない。著名な起業家レベルでも、100個とか500個という膨大な数のアイデアを練り、その中から取捨選択して新規事業を決定している。つまり、商売のアイデアというのは「数で勝負」という部分があり、これはある種の力業なのだ。
営業活動も同じで、営業を成功させるための法則というのは、ほぼ確立しており、その法則に従えば、それなりの成功を収めることができる。営業活動を成功させるのに、必ずしも天才的な能力は必要ない。
だが、本稿で取り上げた「お金」についての基本的な価値観というものが、成功と失敗を分けているのだとすると、実は「商才」というのは、こうした基本的な価値観のことを指しているのかもしれない。そして何度も指摘してきたように、この価値観は知識ではどうしようもない部分があり、場合によっては本人ですら自覚できない可能性がある。
この仮説が本当だとすると、お金についての価値観こそが、本当の意味での商才であり、これさえあれば、成功できる確率はかなり高いということになるだろう。
筆者は努力を重んじる性格であり、筆者自身の成功も努力で勝ち取ったものと考えたいので、成功できるかどうかが、基本的な性格に依存するというのは、あまり喜ばしい話ではない。だが現実と理想はしっかり分けて考える必要がある。
成功と失敗が、世間でイメージするところの「商才」とは別の「商才」で決まっているのだとすると、世の中はかなり残酷だと言わざるを得ないだろう。
*この記事は2021年1月に掲載されたものです
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