今回のテーマはマレーシア最南端のジョホール州です。このコラムの7回目の「シンガポールのレクリエーション」で、シンガポールに隣接したマレーシア最南端のジョホール州について、レゴランドなどレジャーを中心に紹介しましたが、今回は不動産開発や生活についてフォーカスをあてます。
シンガポールに移住してこの5月でちょうど丸2年となります。妻と子供はシンガポールに移住しており、私は2‐3週間ごとに東京とシンガポールを行き来する生活を続けてきました。そして、この8月から子供がジョホール州にあるマルボロカレッジに転校する予定のため、ジョホール州にも家を借りて3拠点体制での生活を始めることになりそうです。
日本でも最近、ジョホール州の不動産開発についてメディアなどで取り上げられることが増えました。ジョホール州の中心部のことをジョホールバルと呼び、日本ではジョホールバル以外の不動産開発についてもジョホールバルのモノとして紹介されることがありますが、本稿では混乱を避けるためにジョホール州で統一します。
ジョホール州はマレー半島の最南端に位置し、シンガポールの30倍近くの広大な土地に約300万人が暮らしています。現在、ジョホール州の中でシンガポールの近いエリアをイスカンダル開発計画の特区として指定し、急ピッチで不動産開発がすすめられています。イスカンダル開発計画の対象エリアだけでもシンガポールの3倍以上の面積があります。イスカンダル開発計画は海外からの投資も含めて10兆円以上の資金を投じて、現在のこのエリアの人口150万人を、2020年代後半までに300万人に倍増させるという野心的な計画です。
2006年にイスカンダル開発がスタートしてから、既に4兆円以上の巨額の資金が投じられており、その内の半分近くが不動産開発に投じられています。イスカンダル開発は重点開発エリアとして、AからEまでの5つのエリアが指定されていますが、不動産開発として注目されているのが中心部に位置し、シンガポールとも道路で連結されているA地区と、B地区です。
今の町の中心部があるのがA地区で、不動産にも巨額の資金が投入されています。特に目立つのが中国のディベロッパーで、碧桂園、緑地控股集団、広州富力地産といった大手ディベロッパーが超高層ビル数十棟からなる超巨大住宅開発を計画しています。特に、碧桂園はダンガベイと呼ばれる海沿いの20ヘクタール以上の広大な土地に、住人専用のビーチも含めて開発する計画を主導しており、2013年夏の販売開始初日に6,000戸、金額にして2,000億円の販売を達成したことは、世界的なニュースとなりました。
広州富力地産の開発計画は私も視察しましたが、コーズウェイと呼ばれるシンガポールとジョホール州を結ぶ道路の近くで、さらに海岸沿いという好立地に40-50階建てのコンドミニアムを100棟近く建てる予定です。3万戸の住居とさらにはホテル、オフィス、ショッピングモールも整備する計画で、ショールームもその規模に見合って巨大であり、開発の概要を見ただけで衝撃を受けました。
ただ、こうした中国のディベロッパーの巨大開発計画には警戒の声も上がってきています。特に、シンガポールとジョホール州を隔てるジョホール水道は最も狭いところで200メートルほどしかなく、中国のディベロッパーが事前の許可なく海を埋め立てて開発を進めていることには現地の住民だけでなくシンガポール政府も神経をとがらせています。
また、供給過剰への懸念も広がっています。昨年10-12月期にはジョホール州の不動産販売が前年から30%以上も減少しました。中国のディベロッパーを中心とした巨大開発計画の乱立で、コンドミニアムが供給過剰となり値下がりリスクを懸念する投資家が増えてきているようです。
もちろん、ここ数年で高騰したとはいえ80㎡の2ベッドルームで3,000万円前後と、シンガポールの中心部と比較して10分の1ほどの価格は魅力的です。さらに、2020年前後にはシンガポールからジョホール州の中心部まで地下鉄が開通し、最短で1時間以内でシンガポールの中心部まで行き来できるようになると、シンガポールへの通勤需要も取り込めるでしょう。シンガポールのアクセスの良さや、貴重な海外沿いの土地付きなど、差別化要素がある物件であれば、まだ投資の妙味は十分にあると考えています。