ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

シンガポールの50周年記念式典

欧米のメディアの中には、独裁体制による国威発揚の色合いが強いと、シンガポールの建国記念日の様子をネガティブなトーンで報じるところも多かったのですが、シンガポール政府にはそうした欧米社会からの否定的なトーンを理解しながらも、なりふり構わず国民たちの愛国心を向上させなければならない事情がありました。

ホテルもライトアップで祝福
ホテルもライトアップで祝福

それは、2015年が5年に1度の総選挙の年だったからです。前回の2011年(任期の関係で今回は4年ぶりの選挙となった)の総選挙では、リー・クワンユー、リー・シェンロンの親子が率いる与党人民行動党(PAP)の得票率が約60%と史上最低に沈み、全87議席のうち6議席を野党に奪われる結果となりました。日本の議席配分からすると、与党が90%以上の議席を占めるのは大勝ですが、実質的な一党独裁体制であったPAPからすると大きなショックでした。

さらに、その後行われた補欠選挙でも野党が勝ったため、今回の選挙は全87議席の内80議席を与党が占める中で行われました。8月9日の50周年建国記念イベントによる国威発揚気分が冷めないうちにという意図で、総選挙は予想よりも早く9月11日に行われましたが、結果はPAPのもくろみ通りに89議席中(前回選挙より2議席追加)83議席を占める、与党の勝利という結果で終わりました。

何より大きかったのは、与党の得票率が70%にまで上昇したことです。この数字は2006年の前々回の選挙での得票率も上回り、2001年の選挙での約75%の得票率以来の水準でした。今年の3月にシンガポールの国父であるリー・クワンユーが亡くなった為、彼を追悼する壮大なセレモニーがあり、さらに8月にも50周年建国記念イベントと、2回の国家的イベントで愛国心が高まっていたタイミングをうまくとらえた、与党PAPの戦略が功を奏した形です。

前回選挙で唯一議席を確保していた野党、労働者党(WP)以外にも、6つの野党が競合するなど、野党側の足並みが揃わなかったことも与党の大勝の背景にはあります。しかし、得票率が10%も伸びたことには、リー・クワンユーが亡くなってこれまでのシンガポールの50年間の歩みを振り返った時に、結局PAPにしか政権を任せられないと現実的な判断をした国民が多かったと見ています。

50年前に、マレーシアはマレー人優遇政策を推し進めるために、中華系が中心のシンガポールを半ば見放す形で切り離しました。その際にリー・クワンユーが思わず涙したというのが、前述した独立時の会見ですが、結果は50年前に誰もが予想しなかったシンガポールの圧倒的な躍進とマレーシアの停滞となりました。

岡村聡

Return Top