シンガポールから帰ってきて、しばらくは日本での事業展開に注力していたのですが、2012年に入ってからIT起業家を中心として、シンガポールへの海外移住を考えているというお客様が出てきました。シンガポールは日本では年配の富裕層の移住先というイメージが強いかもしれませんが、現在シンガポール政府が海外から最も積極的に誘致しているのは起業家です。
リーマンショック以降長く低迷していた日本のベンチャー市場も2012年後半から上昇に転じ、ヤフーやグリー、DeNAなどの大手IT企業へのエグジットや上場により、まとまった資産を築く起業家が増えはじめ、そうした人の中から節税と次の事業創出の場としてシンガポールに着目する人が出てきたのです。
ちょうど、シンガポール政府も、単なる金融リッチばかりが流入するのでは自国の不動産価格を吊り上げる一方、キャピタルゲイン課税や譲渡・相続税が存在しないシンガポールにおいてなかなか税収増につながらないため、雇用創出にもつながり自国民にもメリットが大きい起業家の誘致に注力するようになっていました。
日本のベンチャーサミットにもシンガポールの企業誘致担当の官僚が現れ、17%と元から低い法人税率をさらに優遇したり、オフィス提供したりという誘致策に加えて、シンガポール人をエンジニアとして雇った場合には人件費も政府が補助するという策まで創業者たちに積極的に展開したため、日本の多くのIT起業家がシンガポール移住と現地での起業に関心を持つようになったのです。
私たちも、お客様を通じてシンガポール政府の姿勢を知るとともに、プライベートバンキングなど富裕層を取り巻くシンガポールに進出することは、資産運用助言という本業にとっても有益だと考えるようになりました。2012年後半から、海外移住を考えるお客様とともにシンガポールへの出張を繰り返す中で、金融都市としてのシンガポールが事業展開で魅力であるとともに、生活の場としても関心を持つようになります。
30代・40代の起業家の方の多くは、自分の子息にどのような教育を行うのがいいのか、グローバルで最適な場所を探しています。お客様と視察を繰り返す中で、ほとんどの方が教育の場としてもシンガポールが世界で最も競争力の高い都市の1つだという印象を持つことに気づきました。夫婦ともに国内だけで教育を受けながら、新卒で外資系企業に就職したために英語に苦労した経験を持つ私たちは、以前から海外で子供を育てることに関心があったので、事業展開と子育てという両面で魅力的なシンガポールへの移住を真剣に考えるようになります。
起業家のシンガポール進出という流れは2013年に入ってからも加速するばかりなので、事業展開においても有益だという確信を得た私たちは、2013年6月に現地に法人を設立し、7月からは妻と子供は移住しました。私も2週間から1ヵ月ごとに東京とシンガポールを行き来して、両都市で半々ずつ滞在する生活を送っています。
次回は、シンガポールでの私たちの生活ぶりについて紹介させていただきます。