前回のコラムで、香港とのライバル関係において、シンガポールとマレーシア最南端のジョホール州との連携が重要となってくると書きましたが、ジョホール州だけでなくマレーシア全体とシンガポールの経済的関係の強化が注目されています。
今年、ASEANの経済統合は新たなフェーズへと進化し、域内のほぼ全ての貿易に対する関税が撤廃されます。6億人を超えるASEAN市場の統合がさらに進み、そのハブとしてのシンガポールの重要性もますます高まってくるでしょう。現在のASEANのGDPの合計は日本の約半分ですが、10年後の2025年にはほぼ並ぶと予測されています。
僅か10年で2倍の経済規模の差が追いつき、さらにその後も同じペースで成長の差が出てくると見られている最大の理由は、人口動態の違いです。世界でも未曾有のペースで高齢化が進んでいる日本では、平均年齢が45歳を超えたことが話題となりましたが、東南アジアは子供がどんどん増え生産年齢人口が拡大し経済も平仄を合わせえ成長するフェーズに入っています。
東南アジアで最も平均年齢が若いのが、フィリピンとカンボジアの23歳で、ちょうど日本の平均年齢の半分となっています。本日の主題のマレーシアも27歳と平均年齢が非常に若くなっています。人口規模が拡大し、それに応じて経済規模も健全に成長していくASEANにおける経済首都として、シンガポールの繁栄は続くでしょう。
ただ、シンガポールではASEANを中心に世界中からヒト・モノ・カネが流入してきていることで、コストの高騰が問題となってきています。不動産の価格や食費など、シンガポールの生活費の高さはこれまでもこの連載で何度か取り上げてきたとおりです。そこで、シンガポールにグローバル本社、もしくはアジア本社を置いている企業の中にはマレーシアに中間管理職以下の人材を配置する例も増えてきました。
シンガポールに次ぐ、域内・域外からの人材の受け入れ先としては、バンコクもこれまで候補に挙がってきましたが、政変が相次ぐ治安情勢の悪さや、自然災害の多さ、何より英語が話せる人材が少ないことから、マレーシアのクアラルンプール(KL)がASEANにおける第2のグローバル都市としての地位を固めています。
日本では、シンガポールに隣接したジョホールバルを中心としたジョホール州のことが話題となりますが、マレーシアの最重要都市はこのKLです。マレーシアの人口は約3,000万人ですが、周辺地域を含めてKLには700万人の人口が集まり、一極集中となっています。そして、このKLには、ASEANはもちろん、最近ではアラブ地域やオセアニアからの投資が増えています。
特に、サウジアラビアやカタールなど、マレーシアと同じイスラム教のペルシャ湾岸産油国からの資金流入は目を見張るものがあります。マレーシアで最高級のショッピングモールに「パビリオン」という施設がありますが、この開発資金の半分近くをカタールの政府系ファンドが負担しており、このモールの横には同じくカタールの政府系ファンドが株主である英国の高級デパート「ハロッズ」のブランドを冠したホテルやレジデンスも計画されています。
また、KLの象徴と呼べるペトロナスツインタワーの隣には、現在世界で最も勢いがあるフォーシーズンズブランドのホテルとレジデンスの開発も進んでいますが、こちらのペントハウスもサウジアラビアの王族が所有していると噂されています。
KLはもともとイスラム金融のグローバルハブとして知られており、イスラム債のグローバルでの発行の60%以上がKLで行われています。
マレーシア政府はこのイスラム金融のグローバルハブとしての機能をさらに強固なものとするために、現首相の名を冠した「タン・ラザック・エクスチェンジ」という総工費1兆円近くのイスラム金融特区設立も計画しています。
そして、このKLとシンガポール間を2時間弱で結ぶ高速鉄道が計画されています。KL、シンガポールそれぞれの都市での終点の場所は決まっていませんが、現在は両都市間を格安航空会社(LCC)で、片道数千円で行き来できるとはいえ4時間弱の時間がかかりますから、高速鉄道の利便性は高いといえるでしょう。
完成は2020年を予定していますが、まだ工事は一切着工しておらず数年は遅れるでしょう。ただ、10年以内にシンガポール‐KL間が高速鉄道で、シンガポール‐ジョホール州間が地下鉄で行き来できるようになり、シンガポールとマレーシアの経済的つながりはさらに深まることは間違いありません。
鉄道により行き来が楽になると、コストが安いマレーシアで暮らしながら、必要な時だけシンガポールに行くというライフスタイルも増えるでしょう。弊社のお客様の間でも将来的なシンガポールとの連携強化を見据えて、未だシンガポールに比べてはるかに割安なKLやジョホール州の市中心部の高級物件への投資が人気となっています。
シンガポール進出を考えている企業や個人は、うまくマレーシアも連携させながら進出戦略を練ることが今後重要となってきます。日本ではあまり報道されませんが、マレーシアのKLを中心とした開発計画を注視してみてください。