その中でも特筆すべきは、合計1.2億ドル(約150億円)を2007年~08年にかけてフェイスブックに対して投資したことです。この投資により李氏はフェイスブックの株式の約0.8%を保有することになりましたが、フェイスブックは2012年に上場し、その後も株価は大きく上昇しているため、今でもこの投資を継続していれば20倍近くに価値が膨れ上がっている計算となります。
フェイスブックほどではないですが、音声認識のSiriや音楽配信のSpotifyへの投資でも多額のリターンが出ており、直近ではビットコインなどブロックチェーンの技術にも投資しています。もちろん、李氏自身が投資先を開拓しているわけではないでしょうが、高齢になりながらも新しいテクノロジーに積極的に投資をする姿勢を示して、優秀なチームを組織して実際に成功に結びつけていることは見事というしかありません。
このように李氏は、香港が第二次大戦後に英国のもとで国際金融都市へとなり、1997年に中国に返還されてからも中国経済の急拡大の恩恵を受けて大きく発展した香港という都市の成長と歩みを合わせて、事業規模を拡大しアジア最大の富豪の地位まで上り詰めました。
ただ、最近、李氏は気になる動きをしています。まず、2014年以降に中国本土で保有していた不動産のかなりの部分を売却し、英国など欧州やカナダなどの不動産に投資の重点を置きなおしました。また、今年に入ってから長江実業とハチソン・ワンポアの事業を再編して、不動産関連を長江実業地産、それ以外の事業を長江和記録実業として、両社ともに香港ではなくケイマン諸島に登記しました。
この動きは共に、中国の経済成長ペースの鈍化と習近平政権による腐敗摘発活動の香港における影響力の拡大を嫌ったものと受け止められています。本人もケイマン諸島への登記を、後継者として指名した長男への移譲をスムーズにするためという説明に終始しており、こうした噂を打ち消せないでいます。
一部には、中国本土や香港の不動産価格下落や株価急落を回避して、投資家として李氏はやはり一流であるという声もありますが、多くの人は「香港の超人」という異名を持ち、香港の繁栄を体現していた李氏が香港を見限って逃げ出そうとしているとネガティブなトーンでとらえています。
香港の失速は、私たちのお客様である日本人富裕層の動きを見ていても実感できます。日本人にとって、香港は資産運用の場として、これまで最も人気の場所でした。プライベートバンキング(PB)の日本人デスクによると、多くの銀行で香港とシンガポールの両方で日本人向けのサービスを提供していますが、どの銀行でも香港の方がシンガポールよりも数倍から10倍以上、日本人による預け入れ額が大きいようです。
ただ、トレンドとしては香港の中国本土政府の影響力拡大を嫌って、資金を香港からシンガポールにシフトする動きが拡大しています。居住環境としても大気汚染がひどく、生活費の高騰が著しい香港から、シンガポールに転居する富裕層も増えています。
次回は、香港の今後も含めて、不動産市況を中心に紹介したいと思います。