このようにまだまだ格差が根強く残り、このことがタクシン派と反タクシン派の対立、さらには軍事政権の頻発を生んでいます。ただ、タイがこうした対立により停滞しなかった最大の理由は、現国王ラーマ9世を広く国民が敬愛していることにあります。
この連載は、各都市をその都市を代表する富豪とともに紹介していますが、このラーマ9世はフォーブスランキングによると2011年時点において世界で最も豊かな王族とされています。バンコク中心部に広大な敷地を所有していることがその理由のようですが、資産額は約3.3兆円とされていて2位のブルネイ国王(約2.2兆円)や3位の当時のサウジアラビアのアブドラ国王(約2.0兆円)など、リッチで有名である産油国の国王たちを抑えて1位となっています。
ただ、もちろんラーマ9世はそのリッチさで尊敬されているわけではありません。在位69年という人類の歴史においても最も長い期間王位をつとめ、その間にタイに訪れた数々の苦難を国民と対話しながら乗り越えてきたその実績にその源があります。
タイ人と話していると、残念ながら現皇太子にはラーマ9世ほどの求心力はないようです。経済発展を遂げながらも大きな格差を抱えているタイは、今後急速な都市化の反動と少子化の影響により、社会保障や不動産価格などにおいて、20-30年後にアジアでも最悪の人口構造問題を抱えると予想されています。
さすがにラーマ9世にこうした長期的な社会問題の不満を解決してもらうことは望めません。タイが今後どのような道を歩んでいくのか、シンガポールから定期的に現地を訪れてウォッチしていきたいと考えています。
次回は、ジョホールに新たに登場した都市型開発であるフォレストシティについて紹介します。