こうした供給過剰の現状をものともせずに、中国の大手ディベロッパーであるカントリーガーデン社が進めている、イスカンダル計画の中でも最大規模の開発案件が今回紹介するフォレストシティです。フォレストシティは、上記のセカンドリンクの南側の湾岸エリアと新たに海を埋め立てた14㎢という広大な土地に、今後20年間にわたって総額約1,800億リンギット (約4.9兆円)という巨費を投じて、最終的に約70万人が暮らす街を作るというメガプロジェクトです。冒頭で1つの都市をゼロから作るという表現をしましたが、決して大げさではないことが分かるでしょう。
現在はまだ計画の初期段階で、陸地から埋め立て地にアプローチする道路とプロジェクト全体の概要を示した模型が収められているドーム型の建物、海岸の一部のみの整備が終わっています。写真にあるように模型だけでも、上記のような超巨大プロジェクトですからとても迫力があります。
プロジェクト名にもあるように緑あふれる街づくりを謳っていて、確かに完成している海岸沿いには極彩色の様々な植物が植えられていました。街全体も中空構造として一番下のフロアを自動車用として、その上のフロアは徒歩や自転車で快適に移動でき、エネルギー効率にも配慮していると謳われています。
しかし、環境という観点から見ると海を大量に埋め立て、海岸沿いのマングローブの森を大規模に切り開いて開発すること自体のダメージが気になります。また、セカンドリンクの近くに位置して、シンガポール側に向けて埋め立てていくという立地を活かして、ゆくゆくは特区的にフォレストシティの住人がシンガポールに入境する手続きを簡素化していきたいと目論んでいるようですが、シンガポール側はマレーシアからの入境者の受け入れにセンシティブなので中々難しいでしょう。
ただ、中国のディベロッパーの勢いとアジアの新興国での街づくりというのはこういう迫力なのかということが端的に表れたプロジェクトであることは間違いありません。中国本土での生産設備の供給過剰は深刻で、国家としてもAIIBなどを通じて広くアジア全域にその活路を見出そうとしていますが、企業も同じ動きをしています。
カントリーガーデン社は、現在61歳の楊國強氏が1997年に広東省で設立しました。10年で中国有数のディベロッパーとなり、2007年には香港上場を果たします。上場前に次女に株式の過半を譲り、この次女も現在30代半ばにして資産額が50億ドル(約5,500億円)の、中国屈指の大富豪として注目されています。
カントリーガーデン社はこれまでに150万室以上の住宅を販売し、7万人の従業員で年間2兆円以上の売上がある超巨大企業です。創業してわずか20年でここまで成長してきたことだけでも奇跡的ですが、さらにフォレストシティのような桁外れに規模の大きいプロジェクトを手掛けようとする姿勢は日本企業には見られないものです。
もちろん、日本人の目から見ると既に供給過剰気味である上に、こうしたメガプロジェクトが出てくるとバブル崩壊が心配になります。ただ、常に前のめりに全速力で成長して来て、少しでも緩めようとすると企業や国全体の経済もクラッシュするという恐怖があるのでしょう。アジアの新興国の勢いとその裏にある危うさの両面が象徴的に表れている、フォレストシティというプロジェクトをぜひ今の段階から注目しておいてください。
次回は、コタキナバルについて紹介します。