ダンシングウォーターは開業してから5年が経過して、これまでに400万人近くのゲストを受け入れてきて、1席当たりの平均単価は1万円を大きく超えていますから、これまでに500億円以上の売上を生み出してきたことになります。このショーの劇場には上記のように史上最高となる250億円のコストが掛けられましたが、ショーを観たゲストたちがカジノやショッピングモールでもお金を落とすことも含めて十分にペイしたと言えるでしょう。
ただ、シルクドゥソレイユのショーだけでも何個も同時に演じられていて、それ以外にも様々なスポーツイベントやコンサートが開催されるラスベガスと比較すると、ダンシングウォーターだけが突出しているマカオのエンターテイメントビジネスはまだまだ乏しく感じます。ラスベガスと違って、カジノリゾートがそれぞれに独立してしまっていて、歩いて色々なリゾートやショーを巡ることができないことも、特にファミリー層にとってマカオの魅力を減じてしまっています。
スポーツイベントについては、アジアが生んだボクシングのスーパースターであるマニー・パッキャオの試合が開催されるなど徐々に充実してきていますが、ラスベガスのMGMグラウンドのようにそこで試合をすること自体が一流選手の証となるような、ビッグイベントにふさわしい器を作っていてほしいと感じました。米国に比べて規制が緩いことを活かして、総合格闘技など先進国では開催が困難なイベントを誘致していくこともありうるでしょう。こうしたスポーツイベントが拡充すると、これらの試合に賭けを行うスポーツベッティングなど、様々な波及効果も期待できます。
マカオは海で隔てられたマカオ半島地区(北側)と、昔は別々の島だったタイパ島とコロアン島がコタイ地区の埋め立てによりつながったエリア(南側)の大きく2つに分けられます。上記のダンシングウォーターの劇場があるコタイ地区を中心として南側ではリゾート開発が進む一方、北側ではコンベンションセンターなどビジネス需要を取り組む施設が急ピッチで開発されていました。
日本でもMICE需要の取り込みというフレーズは観光を語る上で欠かせないものとなっていますが、この点でもマカオはラスベガスと比較するとまだまだです。大きなビジネスイベントが開催できるコンベンションセンターの拡充はもちろん、こうしたビジネスイベントの参加者が仕事を終えた後に行きたくなる質の高いレストランや、優れたデザインのゴルフコースの数において、マカオはラスベガスに大きく見劣りします。
徐々に変わりつつも、未だカジノと売春という不健全なイメージが根強く残るマカオが、ラスベガスのように万人が楽しめるリゾートなるのか、今後は少なくとも、1‐2年おきにはマカオを訪れて、複合エンターテイメント都市としての成長をウォッチしていきたいと考えています。
次回は、マカオのカジノの歴史そのものといえるカジノ王スタンレー・ホー氏のこれまでの歩みを振り返ったうえで、将来のマカオをカジノ運営サイドから占います。