この一括税については2014年に、チューリッヒだけでなくスイス全体で廃止すべきかの国民投票が行われましたが、60%近い票が反対に周り否決されました。つまり、チューリッヒは海外から富裕層を集める上で、金融サービスが充実していたり、魅力的な都市生活を送れたりする魅力はありますが、税金面においては他の州に見劣りする状態となっています。
国民投票で一括税の廃止が否決された理由として、富裕層たちの納税により中間所得以下の人の税率が極めて低く抑えられることがあげられます。前述したように高所得者の税率も他の先進主要国に比べて安いですが、例えば5万スイスフラン(約540万円)の年収の人にかかってくる所得税率は、バーゼル州の場合で1%以下、ベルンで約5.4%と極めて低い税率となっています。
ちなみに、同じ2014年に移民規制を強化する法案についても国民投票にかけられましたが、こちらは賛成が50.3%という僅差で可決されました。スイスへの移民というとあまり日本ではイメージがわかないかもしれませんが、今回の滞在で移民を社会にうまく吸収していく難しさを感じさせるシーンに出くわしました。
前回のコラムで紹介したように、チューリッヒはシュニッツェルやソーセージなどのドイツ料理が美味しいことに加えて、バターやチーズなど乳製品も高品質で、チーズフォンデュなどの形でディナーでもたくさん乳製品を食べるので、カロリー過多になりがちで滞在中は必ず早起きしてチューリッヒ湖をジョギングすることにしていました。
朝5時過ぎから、チューリッヒでは路面電車が走り、ごみ収集をしている作業員があちこちにいますが、作業員は全員アフリカもしくは中東系の黒人です。さらに、日中は観光客でにぎわうチューリッヒ湖畔の公園も早朝はアジア系や黒人のホームレスの姿が目につきました。朝早くからジョギングをしているのは私以外がほぼ全員白人で、チューリッヒ湖の美しい景色を眺めながらのジョギングは気持ちよかったのですが、同時に色々と考えさせられました。
スイスの1人あたりGDPは2015年時点で8万ドルを超えていて、日本の約2.5倍もあるとても豊かな国です。豊かでかつ外国人も富裕層を中心に積極的に受け入れてきて多様性もあるスイスが、国民投票で移民規制の強化に賛成したという事実は重く響きます。
うまく海外からのリソースも取り入れて豊かになってきたスイスが、今後海外の富裕層や移民とどのように接していくのか、私たちが暮らすシンガポールの今後を占う上でもとても注目しています。
次回は、滞在中にテロに見舞われてしまったニースについてのコラムです。
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