こうした権力や富を手にした新興国の富豪がより盤石な地位を築くために移住することに加えて、もう1つロンドンに移住する富豪たちの大きな流れがあります。それは、コモンウェルスからの移住です。元は英国の植民地であった国々からなるコモンウェルスは、教育のカリキュラムが共通していたり、ラグビーやクリケットなど英国発祥のスポーツが盛んでコモンウェルス全域からアスリートが集まるスポーツ大会が開催されていたりと、今でも一定の結びつきがあります。
そして、インドを始めカナダやオーストラリア、ニュージーランド、さらにはナイジェリアやマレーシアなど世界中のコモンウェルスの国々から数多くの富豪たちがロンドンに移住しています。コモンウェルス諸国で生まれた人にとって、今は直接的な支配関係になくとも旧宗主国へのあこがれは強いのでしょう。この中でも特に存在感が大きいのがインド人です
英紙サンデータイムズが毎年4月に発表する恒例の英国富豪ランキングでも、1位のデービッド/サイモン・ルーベン兄弟や2位のスリ/ゴピ・ヒンドゥージャ兄弟、さらには11位のラクシュミ・ミッタルなどインド出身の大富豪が上位に顔を揃えていて、全員がロンドンに住居を持っています。そして、1位のルーベン兄弟、2位のヒンドゥージャ兄弟共に国籍も英国に変えています。英国のパスポートは大英帝国時代の威光の名残で、世界の中でも最も多くの国にビザなしで滞在できます。旧ソ連圏のように治安に問題がなくとも、前述した税制と合わせて世界を股にかけて活躍する大富豪にとっては英国籍に変更することで得られるメリットは多いのでしょう。
今回の視察ではロンドンの超高級コンドミニアムをいくつも視察しましたが、ここまで紹介してきたような大富豪たちの多くはコンドミニアムではなくタウンハウスに住んでいます。タウンハウスの中でも最高級の大邸宅が集まるケンジントン・パレス・ガーデンズを今回の視察で訪れました。ケンジントン・パレス・ガーデンズは約30の邸宅からなっていて、大使館や大使公邸に加えて、サウジアラビアの王族や今回のコラムで紹介したロマン・アブラモビッチやラクシュミ・ミッタルなど個人の邸宅もあります。
ウィキペディアを見ればどの邸宅が誰の所有かわかるので、アブラモビッチの邸宅の前で写真を撮ろうとすると、気づかないうちに背後に立っていたとてつもなく強そうな体格のボディガードに撮影はダメとロシア訛りの英語で止められました。ケンジントン・パレス・ガーデンズの通りには窓にスモークが掛かった自動車がたくさん泊まっていますが、おそらくそのほとんどにここに居を構えるVIP達のボディガードが待機していて、通りに目を光らせているようです。それにしても、全く気配を感じさせずに有無をいわさず制止されたことから、ここに居を構えるような大富豪たちは恐ろしく有能なボディガードを揃えていると身をもって思い知りました。ちなみに、掲載している写真はこのボディガードから、特定の邸宅をズームして撮影しているのでなければ大丈夫とお墨付きをもらったのでご安心ください。
この連載は各都市を代表する富豪を絡めながら、最新事情について執筆していますが、ロンドンには世界中からたくさんの富豪が集まっているので、特定の富豪を選ばず多くの人物を紹介しながら次回以降も執筆していきます。
次回は、ロンドンの超高級不動産の最新事情を紹介します。
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