夢の国の実現とその後のディズニー
ウォルトを失ったロイは、自らの引退を先延ばしにして弟の夢の国の実現にまい進します。湿地帯であったために大規模な灌漑工事を行って地盤を改良するなど、建設費は当初の予定以上に膨らみますが転換社債を発行するなどして何とか資金を調達し、建設開始から5年後の1971年10月にディズニーワールドは開業します。
この夢の国を最初に思いついた弟の名前をパークが存続する限り残すために、パークの正式名称はウォルト・ディズニー・ワールドとされました。
自分の人生を天才クリエイターだった弟ウォルトの夢の実現を支えることにささげた兄ロイは、ディズニーワールドの開業を見届けた2ヵ月後に亡くなります。
ロイが亡くなったことでディズニー家は、ディズニー社の経営の一線からは退きますが、皮肉なことにディズニーワールド建設のために多額に発行された転換社債が普通株式に換わったことで、ディズニー家の持ち株比率は下がり、敵対的買収の危機にさらされます。
こうした買収危機の末にCEOに就任したマイケル・アイズナーは、1984年から2005年までの20年以上に渡って同職をつとめます。世界中にテーマパークを開設し、ケーブルTV事業を拡大するなどビジネス規模を大きくすることには成功しますが、その一方で制作現場に頻繁に介入し創造性を失わせているという批判も招きます。
2003年には、ロイの息子であるロイ・E・ディズニーとアイズナーは社風の変化などで激しく対立し、取締役を辞任します。ディズニー家の精神は失われたかに思われましたが、アイズナーはその後2005年に経営不振の責任を取って追放され、ボブ・アイガーにCEOは交代します。
アイガーはディズニーにはディズニー家の精神が必要であるとCEO就任後すぐにロイを呼び戻します。さらに、アイガーはスティーブ・ジョブズと深い信頼感で結ばれていたことで、前回のコラムで取り上げたピクサーの買収を実現させます。
ウォルト・ディズニーという1人の天才クリエイターはアニメ映画からスタートして、ディズニーワールドという夢の国を作り上げました。そして、アイガーという傑出したリーダーとディズニー家の精神を引き継ぐロイの下で、ディズニー社は前述したピクサーやマーベルコミック、スターウォーズなど様々なコンテンツを手中に収め、これらのテーマのアトラクションが次々につくられることでディズニーワールドはその魅力をますます高めていきそうです。
ディズニーワールドは米国のコンテンツ産業の100年にわたる歴史が結晶化した最高の作品と言えるでしょう。コンテンツビジネスに関心がある方はマストで訪れるべきと、今回の訪問でも感じました。
次回は、BVIなどカリブ海のタックスヘイブンについて紹介します。
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