日本のカジノリゾートの成功の道
アジアのカジノリゾートで気になるのは、マカオだけでなくまだ確定した数字は発表されていませんが、シンガポールの2つのIR(統合型リゾート)のカジノ収入も前年から減少していると見られていることです。IRへの脱皮がまだまだのマカオはともかく、IRの最先端を行っていると見られているシンガポールのリゾートでもカジノ売上が減少していることは、今後カジノを新設する日本においてもリゾートを設計する上で十分に認識しておかなければなりません。
もう1つ日本でのカジノを議論する上で重要な統計があり、それは国別のカジノ売上のランキングです。先ほどリゾート別のカジノリゾートの売上ランキングでは、アジアが上位を独占していると紹介しましたが、国別でみると米国がトップで年間売上が約620億ドル(約7.0兆円)で、2位が中国(マカオでしかカジノが許可されていないためマカオの売上と同義)、3位がカナダ、4位がシンガポール、5位がオーストラリアとなっています。
米国やカナダが上位にランクインしているのは、ラスベガスなどの一部の都市を除いて、小規模のカジノが各地に散在しているためです。このように、カジノを国が許可するやり方としては、シンガポールやマレーシアに代表されるように数拠点のみ許可を出してそこにIRを建設するやり方と、米国やカナダのように一部の都市のIR以外にも各地に小規模施設を建設することを許可する2つの方法があります。
ただ、日本では既に競馬や競艇など多種多様な公営ギャンブルが存在し、さらにパチンコという世界でも類を見ない市街地に浸透したギャンブル施設まであり、ギャンブル依存症も深刻な社会問題となっている以上、米国とカナダのように新たに小規模施設を建設することを認めることは、社会的に受け入れられないでしょう。
必然的に数拠点のIR施設建設を認める方法になると考えられますが、上記のようにシンガポールですらIRのカジノ売上は低迷してきています。これだけアジアにIRが続々と建設され、飽和状態になりつつある中で、日本のIRが大きな収益をあげるには相当差別化された施設としなければならないでしょう。鍵となるのがハイローラーの獲得です。
この連載のマカオの回でも紹介しましたように、マカオのカジノ売上の過半をハイローラーと呼ばれる多額の資金を賭けるVIP客が生み出しています。ただ、マカオに来ている中国人のハイローラーはジャンケットというマカオ特有の制度により成り立っている側面が大きく、日本のIRが中国人ハイローラーに資金を適切に貸し付けて、最終的に中国本土に渡ってでも回収まで行うことは困難でしょう。
ちなみに、世界のハイローラーの頂点はメガウェイル(巨大なクジラ)と呼ばれる100億円以上をカジノに預けて遊ぶ超VIPで、世界中に200人ほどいるとされています。もちろん、中国人もこのメガウェイルのかなりの割合を占めていますが、日本ではあまり知られていませんが、欧州系の人たちもかなりの数が居ます。
シンガポールのカジノ専門家に日本のカジノの成功の成否を聞いたところ、この欧州系のメガウェイルを取り込めるような施設が作れるかにかかっていると話していました。こうした欧州のVIPが評価する美しい庭園や寺社仏閣など日本の文化の粋が味わえる施設が近隣にあって、洗練された日本食が食べられるレストランを併設するなど、数日間の旅行でもカジノ以外に充実したプランが可能な立地がカギとなるようです。プライベートジェットが駐機できる国際空港からIRまでスムーズにアプローチできることも重要と指摘していました。
この話を聞いて私の地元の大阪が上記の条件を満たしていて有望ではないかと感じました。カジノの運営はこうしたメガウェイルの対応になれた米国のカジノ会社に任せることがいいでしょう。うまく、日本企業とカジノ運営会社が連携して、メガウェイルも足を運ぶ施設が大阪にできるといいなと願っています。
次回はマニラのカジノリゾートについて紹介します。
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日本とシンガポールで、超富裕層を対象にファミリーオフィスを経営する著者が、「本当の富裕層」から学んだ、お金を使いこなし、豊かな人生をおくる術を解き明かす一冊。